約十三分間の観覧車の旅が終わった後は、名残惜しいがこの遊園地からおさらばしなければならない。
俺たちは観覧車から降りると、どんどん人が疎らになっている道を、駅の方の出口に向かって歩んでいく。
「今日は楽しかったね~」
「ああ、そうだな」
これまで何回か遊園地に行ったことはあったが、今回が一番楽しかったと断言できる。こんなに遊園地って楽しかったんだ……と改めて気づくきっかけになった。
「それにしても、結局アレは見間違えだったのかな……?」
「ああ、水無瀬と姉ちゃんか。でも、俺たちが降りた時にはいなかったよな?」
「……でも、入れ違いで観覧車に乗っていっちゃったかもしれないよ?」
「まあ、その可能性は否定できないな。俺は見間違いだと思うが」
そんなことを話していると、不意に五十嵐が俺の前に走って出て、そしてクルッとこちらに振り返った。
「言い忘れていたけど……今日は付き合ってくれてありがとう、慧」
「お、おう……。こっちこそありがとな」
突然だから、ちょっとビックリしてしまった。
それに、このデート、元はと言えば、姉ちゃんが提案してくれたんだよな。こういう機会を作ってくれたという面で言えば、最初に提案してくれた姉ちゃんにも感謝しなければならない。
……というか、ここで感謝の言葉を交わすというこの状況、俺たちがこの駅で別れて帰るみたいな状況に感じられる。実際は家まで同じなんだけどな。
俺たちは係員から『ありがとうございました~』と声をかけられながら、遊園地のゲートを潜り抜けた。
駅はすぐそこ、道路を挟んだ向かい側だ。赤信号で俺たちは一旦立ち止まる。
と向かい風に乗って、微かに駅メロとアナウンスが流れてきた。
『間もなく、二番線に、快速・新宿行きが、十両編成で参ります……』
「ヤバい! 電車来ちゃった!」
五十嵐が焦った声を出すと同時に、目の前の歩行者用信号が赤から青になる。
「そうだな……おい、走るなよ!」
青になるや否や、五十嵐は走って駅の方に駆け出す。俺は苦笑しながら後を追いかけようと一歩を踏み出した。
だが、次の瞬間。盛大にクラクションが鳴る。
反射的に音のした方向を見ると、赤信号を強引に通過しようとしたのか、一対のヘッドライトが猛スピードでこちらに向かって来ていた。
それがもうすぐ通り過ぎるだろうその場所に、今まさに五十嵐が差し掛かろうとしていた。
俺の視界に、あの日の光景が重なる。
……もうそんな光景は見たくない。だから俺にやれることは全力でやる。あの日、強くそう心に誓ったんじゃなかったのか!
その思いが弾けた時、俺は全速力で駆け出していた。
間に合うかどうかは分からない。けど、このまま何もしなかったら絶対に後悔する。
そして、俺の喉は勝手にその名を叫んでいた。
「ひかりーーーー‼」