遊園地の中にある休憩所のようなところで俺たちは昼食を取った後、再び外に出て遊園地を散策する。
既に開園からだいぶ時間が経っているせいか、遊園地の中はたくさんの人でごった返している。昼飯前は歩きやすかったが、今では少し窮屈に感じる。
と、何を突然思ったのか、左を歩く五十嵐が俺の左手をギュッと握ってきた。
ビックリして思わず五十嵐の顔を見ると、彼女は。
「人ごみの中ではぐれたら困るでしょ?」
そう言って少し恥ずかしそうに笑って、俺の手を更に強くギュッと握ってきた。
おおう、大胆だな……。ならこっちも大胆になってやる!
俺は五十嵐の指の間に自分の指を滑り込ませて、よりガッチリと手を繋ぐ。俗に言う、恋人繋ぎっていうやつだ。どうだ~、とちょっとドヤ顔をして五十嵐の方を向く。
彼女は、ちょっと頬を赤くして恥ずかしそうにしながらも、俺の手に合わせるようにして指を絡ませる。
あーなんか一気にドキドキしてきた! さっきまでは遊びの延長のような感覚だったが、五十嵐が頬を赤くしたせいで、自分がスゴいことをやっているな、という実感が湧いてきた。だからといって、いまさら手を離せないけど。
それにしても、こうしてみると俺たちは本当に付き合っているみたいだな……。本当は付き合っていないんだけど。今ここで告ったら、五十嵐はすぐにOKしてキスでもしてしまいそう、そんな雰囲気になっているようにさえ感じてしまう。まあ、そんなことは実際にはしないけどな。
「あ、慧! 次はアレに乗りたい!」
五十嵐が指さしたのは、コーヒーカップ。お昼直後にアレって、果たして大丈夫だろうか……?
まあ、五十嵐が選んだんだし、俺もリバースしないように頑張るとしよう。
「そうか、じゃあ行くか」
「うん!」
☆★☆★☆
それから、俺たちは数々のアトラクションを巡り、遊園地のほとんどのアトラクションは制覇するまでに至った。途中で何回も気持ち悪くなりかけたが。それでもトイレに行かずに全て乗り切った。
こんなに気持ち悪くなった遊園地は初めてかもな……。でも、こんなに楽しい遊園地は初めてだった。
「寒くなってきたね」
「そうだな」
吐く息は白くなり、周囲もだんだん暗くなってきた。日が落ちたことにより、空気はだんだん冷え込んできていて、五十嵐はマフラーに首を埋めている。
腕時計を確認すると、現在時刻は午後四時五十分。ということは……。
「五十嵐、もうそろそろアレが始まる時刻だな」
「アレ?」
俺は五十嵐の手を握って引っ張りつつ、どんどん坂を上っていく。
「どこに行くの? それにアレって何?」
「忘れているのか……? まあ、お楽しみだ」
長い坂を上り切ると、そこには開けた場所になっていて、多くの人がいた。俺は空いている場所を見つけてそこに滑り込むと、坂の下にある花畑や噴水を見下ろす。
「いったい何が始まるの?」
「もうすぐ分かる。……あと三、二、一……」
次の瞬間、午後五時になるとともに、目下に光の海が現れた。
青、白、緑……色とりどりの細かい光の点が集まって、一つの壮大な光景が描かれていた。
「わぁ……」
「綺麗だな……」
俺たちはしばしこの光景を言葉を無くして見つめていた。
そして、我に返ってスマホでこのイルミネーションを撮影する。
「それじゃあ、帰るか」
しばらくして、俺はそう提案する。だいぶ寒くなってきた上に、もうそろそろ帰らないと夕食に間に合わなくなってしまう。
そう思って踵を返そうとする俺は、腕を引っ張られる感覚と共にその動きを止められた。
「ううん、待って。あと一か所だけ行っていないところがあるよ」
「……まだ行っていないところなんてあったか?」
「あそこだよ」
五十嵐が指さした先にあったのは、虹色にライトアップされている巨大な輪。
そういえば最後に行こうと思って、ずっと乗っていなかったんだった。
俺は五十嵐の手を取って言った。
「それじゃあ行こうか、観覧車へ」