「はぁ……はぁ……ううっ」
「ごめんね、無理言って」
「だ、大丈夫……うっ」
荒い呼吸、顔面蒼白の状態でベンチに座って泣きかけているのは水無瀬菫。そして、ベンチの前に座って菫に心配そうに声を掛けているのは、雨宮舞。
彼女たち二人はさっきこの遊園地最大のジェットコースター、ブリガンドに乗って来たばかりだ。
しかし、それを楽しんだのは舞だけ。舞に連れられて不可抗力的に乗り込んだ菫は最初の急降下で、あまりの恐怖に気絶してしまったのだ。
「というか、乗っている間の記憶なんてないわよね?」
「でも……でもぉ……」
ジェットコースターが一周して戻ってきた時、舞は菫が隣の席で気絶しているのに気づいた。彼女はその運動神経を駆使して、菫をおんぶしてここまで連れてきて座らせた後、起こしたのだ。
目覚めてからずっと、菫はこの調子である。記憶は無いはずだが、彼女の中ではジェットコースター=怖いものとしてトラウマになってしまったようだ。
「ごめん……」
「ううん、大丈夫……」
なんか思いっきりキャラ変わっているわね……こっちのキャラも可愛い、と舞は不覚にも密かに心の中で思ってしまった。
それでも、元気づけなければならない。元の調子に戻してあげなければ。それをするには何をすればいいのか。彼女は考えた。
そして、彼女の至った結論は……。
「……私の前で泣くな、我が半身。この程度のことで泣くような時間跳躍者(タイムリーパー)だったか、君は」
「……レーゲンパラスト」
「フフフ……君のスタンスは『過去には囚われない』ではなかったか? 恐るべきブリガンドは既に過ぎ去った。さあ、君の目的を思い出せ、我が半身よ」
そんな舞の中二的な言葉に、菫はハッ、と何か大切なことを思い出した、という顔をすると。
「……我が目的は二人を追い、来るべきその時に備えて万全を尽くすこと!」
菫は涙を拭うと、スッと立ち上がる。心の変わりようの速い中二病である。
「追跡を再開するぞ、レーゲンパラストよ!」
「おー!」
菫は立ち上がって、人ごみの中を早足で歩いていく。
そして、しばらく歩くと、不意に舞の方を振り向いた。
「レーゲンパラスト、その……これからずっとあの口調でいて欲しい」
「却下よ」
「何故!」
流石に中二病の口調は精神的に疲れるし、やっぱり恥ずかしいからね、と舞はこっそりため息をついた。