お化け屋敷の前には、まだ開園してからそんなに時間が経っていないのに、長蛇の列が形成されていた。
今は冬。普通お化け屋敷は夏にやるもの。思いっきり季節外れだ。
しかし、事前リサーチをしたところ、ここのお化け屋敷はこれでもかというほどおどかし方のバリエーションが豊かだということで人気があるらしい、ことが分かった。季節外れでも、一年中客が入るのだろう。
「お化け屋敷ってどんなところなんだろう……」
五十嵐はお化け屋敷を知らないようだ。神よ、知識のインプット漏れが酷いぞ……。その無知ゆえ、五十嵐は初めてお化け屋敷にとてもワクワクした表情を見せる。お化け屋敷ってワクワクするところじゃなくてビクビクするところなんだが。
そうこうしているうちに、俺たちの番がやってきた。係員の人が『どうぞ~』と俺たちを中に入れる。
「わぁ~暗いね~」
「そりゃあそういうもんだからな」
ちなみにこのお化け屋敷、中にはライトがほとんどない。マジで通路は暗かった。もちろん、完全に真っ暗なのではなく、目を凝らせばギリギリ見える。
そんな中を、俺たちは手を繋いでほぼ手探り状態で進んでいく。
進んでいくにつれ、最初はワクワクとしていた五十嵐がだんだんビクビクしてくるのが分かる。繋いでいる手がブルブル震えてきた。
「ねぇ、いつまでこの場所が続くの……?」
「さぁ? とにかく先に進もう」
五十嵐の震える声に、俺は平然を装って返す。だが、内心俺もかなりビクビクしている。怖いのはあんまり好きじゃないからな。
ペチリ。
「いやーーーーーー‼」
「うおっ!」
なんだなんだなんだ⁉
突然何かが張り付くような音がした後、五十嵐が悲鳴をあげた。あまりにも耳元で叫ぶものだからビックリしたぞ……!
見ると、暗闇の中で五十嵐が床にへたり込んでいるのが薄っすらと見えた。目には涙も浮かんでいる。
「い、いったい何があったんだ……?」
「な、なんか……わたしの顔に……生ぬるいものが……ペチリって直撃して……」
もしかして……。
そう思って俺が五十嵐の上へ視線を動かすと、そこにあったのは予想通り、上から糸で吊るされたこんにゃく。
これはまた随分と古典的な……。
五十嵐が立ち上がるまで待っていると、上の方から小さな駆動音が響いて、スルスルとこんにゃくが静かに昇っていった。
……変なところでハイテクだな。
☆★☆★☆
「お疲れ様でした~」
「うううっ……うう……」
「だ、大丈夫かよ……」
お化け屋敷を出る頃には、五十嵐は恐怖のあまりちょっと泣いていた。やはり初めてのお化け屋敷は、五十嵐にとってちょっと怖すぎるものだったようだ。ほぼ全ての仕掛けに過剰と思えるほど驚いていたのだ。
一緒にいた俺はというと、仕掛けに驚くというよりかは、仕掛けにいちいち大きな声をあげて驚く五十嵐に驚いた。
「うぅ……怖かったよぉ……」
「はいはい、怖いの苦手なんだな」
「そんなわけないよぉ……ぐずっ」
五十嵐は必死に強がっている。だが、震えているその全身が『怖いのが苦手です』と主張しているのは一目瞭然だ。
すると、五十嵐のお腹がキュルキュル~と可愛らしい音を立てた。腕時計を見ると、時刻は十一時四十分。もうお昼時だ。
「ちょっと早いけど、お昼にするか」
「うん!」
早めの昼飯を提案しながら五十嵐の方を見ると、さっきまでメソメソしていたのはどこへやら、一転して元気一杯に頷いた。
立ち直り速っ!