慧とひかりが入場してからおよそ一時間後。
電車がちょうど到着した遊園地前の駅から大量の人が降りる中、彼女ら二人もまた、その流れに乗って電車を降りていた。
「うぅ……気持ち悪い……」
「大丈夫? トイレ行く?」
「行かない……」
顔面蒼白で、今にもリバースしそうになっているのは、慧の同級生にしてその遊園地の一日フリーパスを譲った張本人、中二病少女の水無瀬菫。
そして彼女に自身の肩を貸して、背中をさすってあげているのは、慧の姉にして元中二病の生徒会長、雨宮舞。
「だからすみれちゃんちの車で行った方がいい、って言ったのに……」
「それでは……渋滞で余計に時間がかかってしまうではないか……うぷ」
「乗り物酔いをしやすいっていうのに……」
舞は駅から出ると、菫を駅前のベンチに座らせて休ませる。
数分後、いくらか気分が回復した菫は、すっくと立ちあがった。
「もう大丈夫なのね?」
「もちろん。それでは早く行くぞ!」
菫は舞の手を取ると、ズンズンと入場口の方へと歩き始める。
「ちょっと、何を焦っているのよ?」
「焦ってなどいない! ただ遊園地に早く着きたいのだ! 早く彼奴らを見つけねば……」
その言葉とは裏腹に、舞の言う通り菫はものすごく焦っていた。
入場口の脇の券売所には既に多くの人が並んでいたが、菫たちはそれを無視して一直線にゲートへ向かう。
「いらっしゃいませ~」
「これで」
菫はスカートのポケットから一日フリーパス券を二枚取り出すと、ゲート脇に待機している係員にサッと提示する。こういう動作だけ、すみれちゃんの中二病はカッコよく見えるわね……と舞は思った。
「はい、それでは、行ってらっしゃいませ~」
菫は早速入場するなり、傍にあったパンフレットを手に取ってバッと広げた。
「どこだ~、いったいあのカップルはどこだ~」
「何かものすごい執念を感じるわね……」
菫から発せられるオーラに思わず舞も気圧される。
舞も、慧たちの居場所を探そうと菫の横からパンフレットを見る。すると、彼女は気になる文字を発見した。
「あっ! もしかしてこれは……」
「どうした⁉ 何を見つけた⁉」
「ブリガンドじゃん! 一度乗りたいと思っていたのよ~」
「そっち⁉」
菫はガクッと肩を落とす。そしてもう一度パンフレットに視線を落とす。
「レーゲンパラスト、早く……」
そう言いかけた時、菫の腕が掴まれ、勢いよく引っ張られた。
「早く乗らないと混んじゃうよ! 行こう!」
「うぇ? ちょ、ちょっと、待て、待ってぇ~」
菫は抵抗するも、舞の腕力には敵わず、ブリガンドの方へと連れ去られてしまう菫であった。
果たして、電車でも酔ってしまう菫が、ブリガンドに乗ったらいったいどうなってしまうのか……。