ブリガンド。
この遊園地最大級のアトラクションであり、全長約二キロの巨大ジェットコースターである。
最大高低差はおよそ八十メートル。最大時速はなんとチーター並みの百十キロ。建設当時はそれで世界記録も保持していたそうだ。
そして、俺たちは五十嵐のチョイスで、初っ端からこれに乗ることになった。
ガタガタガタ、とコースターがレールを昇っていく。それに伴って周りの景色はどんどん開けてきているが、俺にはそれを楽しむ余裕なんてない。
いや、だって一番前の席でものすごい風圧と加速度をダイレクトで受けるんだぞ? それを考えると楽しむ余裕なんてないだろ!
一方、隣の席に座っている五十嵐は、ビクビクしている俺とは対照的に、ものすごくワクワクしている。せわしなく周りを見渡して、『すごーい!』とか『たーのしー!』とか、テンション高く騒いでいた。
何故そんなに楽しめるんだよ……。俺にはそれが不思議でたまらない。
そして、遂にその時がやってきた。
最高高度に到達し、位置エネルギーが最大になる。後はそれを運動エネルギーに変換するのみだ。
視界が急に下を向いて、内臓が浮くような奇妙な感覚と共に、ジェットコースターが急降下し始めた。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁああああああ‼」
「キャーーーーーーーー‼」
そこからの記憶は、ない。
☆★☆★☆
「ああー‼ 楽しかった!」
「はぁー……はぁー……」
気が付くと、俺はジェットコースター乗り場の傍のベンチに座っていた。視界がグルグルと回って、ものすごく気持ち悪い。朝食べたものをリバースしそう……だけど、近くに五十嵐がいるのでなんとか我慢する。
本当に、こういう類のアトラクションは苦手なんだよな……。今回のは今まで体験したジェットコースターの中でも特にエグかった。
こんな激しい乗り物に乗ったのに、何故五十嵐はケロッとしているのか、俺には理解できない……。
「大丈夫? トイレ行く?」
「……いや、だいぶ落ち着いてきた」
ベンチに座って深呼吸をすることで、いくらか気分がよくなってきた。視界も安定してきたし、もうそろそろ歩けそうだ。
俺はよっこらしょ、と立ち上がると、ふー、と大きく息を吐いた。
「それじゃ、次はどこに行こうか?」
「うーん……じゃあ、アレかな?」
俺の問いに、五十嵐はしばらく逡巡した後、ある方向を指さした。
その先にあったのは、冬場だというのにたくさんの人で賑わっているボロい洋館を模した建物。
「お化け屋敷か……」
「行ってみようよ!」
こうして、未だハイテンションな五十嵐に手を引かれながら、俺たちは小走りでお化け屋敷へと向かうのだった。