昨日の夜は、なんだか不思議な気持ちでよく眠れなかった。
クリスマス当日にデートかぁ……。はぁ、どうしようか。全く想像ができない。無論、人生の初めての、女子と二人っきりの正真正銘のデートである。
絶対何か粗相をしそうな気がする。枕元で響く目覚ましの音でいつもはすぐに起きられるのだが、今朝は緊張して、布団からなかなか出られなかった。
それでもなんとかして布団から出て、階段を下りて台所で今日の朝食を作る。十数分後に、パジャマ姿の五十嵐が下りてきた。
「おはよ~」
「お、おはよう……」
ダメだ、緊張で上手く返事ができねー。対して五十嵐は、超リラックスした様子で『ふわぁ……』と呑気に欠伸までしている。俺だけデートのことを気にしているみたいだ。
……そう考えると、デートで緊張するのがなんだか馬鹿らしく思えてきた。
よーし! もう粗相するとかしないとかはどうでもいいから、今日はデートを思いっきり楽しむぞ!
「痛っ!」
「……大丈夫?」
……吹っ切れたあまり、包丁で指に切り傷を作ってしまった。痛ぇ……。
☆★☆★☆
とまあ、色々とアクシデントがあり、朝食を食べた後少ししてから、遂に出発の時が来た。
「いってらっしゃ~い」
「行ってきます!」
「行ってくる」
姉ちゃんがまだ眠そうな顔をしたまま、俺たちのことを見送る。あ~、また緊張が戻って来たぞ~。ストレスのなさそうなその顔がちょっと羨ましい。
我が家を後にして、俺たちはいつも通学で向かう駅に向かう。
今回、遊園地までは電車を使って一時間程かかる。だから、かなり早めに家を出発しないと、遊園地で遊びつくせるほどの時間が確保できなかった。
……まあ、実際は五十嵐の『遊園地⁉ 初めてだからたくさん遊びたいな!』というのが、一番大きな理由だったのだが。
駅に着くと、ちょうど遊園地方面に向かう電車がやってきた。ナイスタイミング! ということで電車に乗り込む。
電車の中はいつもより若干空いていた。だが、普段よりも男女二人組の割合が高い気がする。やっぱりクリスマスだから、世の中のカップル共はこの機会に外出するのだろう。
……俺たちもそういう風に周りから捉えられているのかもな。
座席に並んで座ると、五十嵐は俺の手を無言でギュッと握ってくる。俺もそれに応えてギュッと握り返す。
……今更ながら、俺の服装大丈夫かな? 部屋にあった服を適当に着てきたけど、大丈夫だよね? 変じゃないよね?
あー、なんだか色々なことが心配になってくる。本当に大丈夫かな、俺。粗相をするとかしないとかじゃなくて、最早自分に自信が持てなくなっているレベル。俺、ヤバいな……。
いやいや、さっきからずっと一人の世界に入っているけど、ここは五十嵐と話さないとダメなんじゃないか? 一緒にいるのに家を出てから今まで一言も喋っていないぞ⁉
ここは俺も何か話すべきだな!
「なあ、あのさ……」
そして、俺が隣で手を握っている五十嵐を見ると、
「くかー……」
こてん、と俺の肩に頭を預けて、寝てしまっていた。