十五分後。
姉ちゃんにより、部屋から締め出された俺たちがリビングで待っていると、二人が上から戻って来た。
「はぁ……はぁ……」
「むー……」
よほど水無瀬が抵抗したのだろう、普段は疲れなんて全く見せない姉ちゃんが、肩で息をしてゲッソリしていた。HPだけじゃなくてMPまでゴッソリ削られたみたいだ。
一方、元の服装に戻った水無瀬は、たいそうご不満な様子だ。姉ちゃんの黒歴史グッズをよほど気に入ったのだろう。
ここ数分間、上からドッタンバッタン聞こえていたからな……。相当な修羅場があったんだろうな。
「油断したわ……すみれちゃんがウチにいるときは鍵をかけておくべきだったわ……」
「次は装着させてくれるのだろうな⁉」
「う、うん……」
なんとなく姉ちゃんがどうやって水無瀬を説得したのか分かってしまった。
姉ちゃん、大変だな……。
「そういえばひかりちゃんは?」
「もしや我に代わり別世界への転生を果たしたか⁉」
「んなわけねえだろ。今、ケーキを取りに行ってもらっているだけだ」
二人が上でドッタンバッタン大騒ぎしている間に、ケーキ屋から電話がかかってきたので、五十嵐が取りに行ったのだ。
もちろん、俺が無理矢理行かせたのではない。五十嵐が自ら『取りに行くよ!』と言って、俺が止める暇もなく家から飛び出して行ってしまったのだ。
「けーき⁉」
「ほう……我に貢物か……」
俺の言葉を来て、言い方は全然違うけれど、二人とも嬉しそうに目を輝かせる。
壁に掛かっている時計を見ると、既に五十嵐がこの家を出発してから十分が経過している。ここからデパートまではだいたい片道五分くらいなので、そろそろ帰ってくるはずだ。
……流石に一人でケーキを取りに行かせるのはマズかったかな。ケーキはきっと重いだろうから、フォローに行くべきだろうか。
そんなことを考えていたら、玄関のドアがガチャリと開く音がした。
「ただいま~」
「おかえりなさい……ってデカ!」
リビングに入ってきた五十嵐は……ケーキだった。
……正確にはケーキがデカすぎて、それを入れた箱で五十嵐の上半身が隠れていた。五十嵐はどっこいしょー、とダイニングテーブルの上にケーキを置く。ドスン、というケーキらしからぬ重量感のある音が響いた。
「こんなにデカかったっけ⁉」
「えっとね、なんかお店の人が笑顔で『サービスです』って言ってた」
これ絶対嫌がらせだよね、そうだよね⁉
まあでも、残念だったな! この嫌がらせは我々には通用しない。何故ならば。
「わぁ……おいしそう……」
「(ゴクリ)」
姉ちゃんと水無瀬は、箱から出したケーキの威容に喉を鳴らした。
この様子なら、この量でも心配いらないだろう。