「水無瀬さん、遅いね……」
「そうだな」
さらに何回かのゲームを終え、俺は時計を見る。
既に、水無瀬がお花を摘みに行ってから三十分以上が経過している。女子のことはよく知らないが、普通こんなに長いものなのか? 流石にちょっとおかしいと思う。
「ちょっと見てくるわ」
姉ちゃんが立ち上がる。その後ろを五十嵐が追いかける。
リビングから出て行った数秒後、廊下から姉ちゃんの声とノックの音。
「すみれちゃ~ん? まだかしら~?」
「……これ、鍵が開いていませんか?」
「ホントだ!」
しばらく呼びかけが続いた後、ガチャリと開くドアの音。
「うそ……」
「……いないわね」
いない? トイレに? 水無瀬は確かにトイレに行く、と言ったはずだが。
もしかしてトイレの空間が捻じれていて、水無瀬が異世界転移してしまったとか? 流石にそれはありえないか。
水無瀬はいったいどこに消えてしまったのか……。このまま見つからないとなれば大ごとだ。俺の家から行方不明者が出てしまったということになる。
姉ちゃんと五十嵐が戻ってくると、俺ともっちーは立ち上がった。
「俺たちも水無瀬を探す。絶対にまだこの家の中にいるはずだ」
「それじゃあ、慧と望月君は一回を探して、私たちは二階を――」
ドンドンドン!
その時、何かが倒れて床を強く打つような、そんな音が俺たちの耳に届いた。間違いない、この場にいない水無瀬が立てた音だ。そして、その音は……。
「上だー!」
もっちーがいち早くリビングの天井を指さす。この部屋の真上、二階のこの位置にあるのは……。
「私の部屋⁉」
姉ちゃんはそう叫ぶなり、リビングを飛び出した。俺たち三人もその後に続いて、階段を駆け上がり、姉ちゃんの部屋に直行する。
「すみれちゃん!」
バンッ! と姉ちゃんがドアを乱暴に開け放つと。
「……あ」
姉ちゃんの服が入っているクローゼットは開け放たれ、中二病時代に集めた数々の痛々しいグッズは床の至る所に転がっており。
そして、部屋の中央には、元々着ていたものを床に脱ぎ散らかして、その代わりに姉ちゃんの『私は堕天使』の中二病Tシャツを身につけ、縁に変な装飾が施されたデカい鏡に向かって、中二病ポーズを繰り出している最中の水無瀬がいた。
水無瀬はビクッと一瞬驚いたようにこちらを向くと、不敵な笑みを湛えて。
「フフフ……レーゲンパラストよ。上質な魔力に満ち溢れる素晴らしい装備を持っているでは……」
「いやーーーーーーーー‼ みないでぇーーーーーーーーーー‼‼」
自分の黒歴史を暴露された姉ちゃんの絶叫が、家中に響き渡った。