「くそぉー!」
一人はカードを床に落とす。
「何故だ……何故だ……!」
一人はカードを眺めて理不尽なこの結果を疑う。
「次こそは負けないからねっ!」
一人はポジティブに目を爛々と輝かせる。
「……難しい」
一人は眉間に皺を寄せて、カードを眺めて考える。
「フーッハッハッハ! 我に敵う者などこの世にいない!」
一人、勝者は高らかに笑う。
……ダウトは、水無瀬の圧勝に終わった。
しかも、一回だけではなく、今まで何回もやったうちの全てだ。途中で二階から姉ちゃんが下りてきてゲームに加わったものの、水無瀬の連勝は変わらなかった。
かなり積極的に皆ダウトをするのだが、水無瀬に向けたダウトは、全てがことごとく外れるのだ。そして、引き取った人がカードの確認すると、水無瀬の番に出されたカードはそのほとんどが嘘をついて出されたもの。そう、ダウトと指摘されたときだけ、嘘をつかずに順番通りに出しているのだ。
マジでコイツ運が強いな! まるで女神から祝福をされているかのようだ。それとも特殊能力を持っているとか? チートかよ!
とにかく、水無瀬はダウトが強い。そこだけは事実だった。
ただ、一人で何連勝もされると、勝っている本人は楽しいだろうが、他の人は負け続けているわけなので面白くない。
ということで、他のゲームでもやろう、と提案しかけたところで、不意に水無瀬が立ち上がった。
「それでは、綺麗な儚き花を我が物にしに行く。数が多く時が過ぎゆく故、その間に一戦交えていても構わない」
「おう。リビング出て右だからな」
水無瀬がリビングを出て行ってからすぐに、五十嵐が不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「……いったいなんて言っていたの?」
「『トイレに行ってくる』だ」
『トイレに行く』=『花を摘みに行く』を中二病っぽく言い回したのが、さっきの言葉だ。分かりにくいことこの上ないが、水無瀬はこれ以外の言い方をしないのだ。
それに、『時間がかかりそうだから、その間に他の人たちとゲームをしていてもいいよ』とも言っていた。ならばお言葉に甘えさせていただこう。
「ま、それじゃあまたダウトをやるか」
「すみれちゃんがいないから今度は勝つわよ!」
「もうそろそろルールも分かってきたし、わたしも負けない……!」
「うーし! 勝つぞー!」
皆が再び気合いを入れる中、俺はカードを集めてよく切って、皆に再分配する。じゃんけんの結果、今度は五十嵐が親になった。
「エース!」
そして、五十嵐の声から、何回目かのダウトが始まった。