俺がレジ袋を持って、エスカレーター前で待つこと数分。
なかなか来ないので電話でもかけようかと心配した矢先、レジ袋を腕から下げた五十嵐がこっちに向かって小走りでやって来た。
「お待たせ~ごめん、ちょっと待った?」
「ああ、大丈夫だ」
俺と五十嵐は並んでエスカレーターに乗って一階へ下る。
五十嵐はいったい何を買ったのだろうか……。
「なあ五十嵐、いったい何を買ったんだ?」
聞くだけ無駄な質問だが、俺はとりあえず聞いてみる。
「ヒ・ミ・ツ」
もちろん、五十嵐は教えてくれなかった。まあ、当日のお楽しみといきましょうか。
「慧こそ何を買ったの?」
「んー、俺は役に立つものを買った」
「なにそれ」
慧らしいね、と五十嵐は続けた。俺らしい、って、俺ってそんなふうに五十嵐に思われていたのかよ。
「それで、これから帰るの?」
「いや、まだだ。今日買わないとそろそろ家の冷蔵庫の中がマズいことになる」
確か今、冷蔵庫の中身はほぼ空になっているはず。残っている物といえば、調味料のラー油とキムチの『御飯よすゝめ君』くらいしかないな。
それに、そろそろ米も尽きるしな……。このままだと、今日の夕飯すら作れなくなる。
「でも、荷物が多くなりそうだけど」
「……そうだな」
これで買い物をしたらプレゼントに加えて、およそ五キロの米や、野菜などの大荷物を抱えることになってしまう。こうなったら二人だけで持って帰れるかどうか……。五十嵐の天使の力が使えればいいのにな。
「あー、やっぱり、一旦帰るか」
「そうだね」
「それに、一人応援を呼ぶか」
「応援?」
「ああ」
雨宮家の中で、俺より力があって、運動神経がよくて現在おそらく暇であろう人物。俺の頭に浮かぶのはただ一人しかいない。
「姉ちゃんを呼ぶんだよ」
「……舞さんを容赦なく使うんだね」
「当たり前だ。休日は料理も家事も何もしないで家でスマホを弄っているか外に出ているかのどっちかじゃないか」
姉ちゃんは平日は生徒会で忙しいのだが、実は休日は意外と暇を持て余している。使える人は使っていくのが俺のスタンスだ。
「それじゃあ、一旦帰るぞ」
「うん」
五十嵐は俺の後に続いて、混雑し始めたデパートを後にする。
冬の日は沈むのが早いもので、既に西の空が赤くなっていた。
俺たちは、二人で並んで、家に向かって歩いていった。