この家の家事の大半は俺が担っていると言ってもよい。
つまり、水仕事はたいてい俺がやっている。
この時期の水は当たり前だがものすごく冷たい。あー、マジで辛い。早く野菜を洗うのを終わらせてぇー!
そんな俺の苦しみも知らず、姉ちゃんは食卓でスマホを弄り、五十嵐は炬燵でヌクヌクしながら録画した深夜アニメを観ていた。
お前ら、少しは手伝えよ……。
そんな気持ちをため息と一緒に押し流すと、突然姉ちゃんが思い出したように言う。
「慧、お父さん、今年も帰れなさそうだって」
「ふーん」
「反応薄っ!」
「だって親父、毎年帰ってきてないじゃん」
親父と一緒に年を越した記憶があるのは小五の時が最後だ。もう四年も帰ってきていないからいい加減慣れた。
今はカイロにいるんだっけ。日本より暖かくていいじゃん。カイロだけに。
「薄情だな~慧は」
「てかどうやって姉ちゃんはそれを知ったんだ? 国際電話か?」
「LIME」
「はぁ⁉」
連絡手段が軽い! 電話ぐらいしないか?
だが、ほら、と姉ちゃんがLIMEの画面を見せてくる。
『お父さん、今年も帰ってこれそう?』
『無理そう。今年も忙しくて、、、ごめんm(__)m』
親父ってこんな人だっけ⁉ 全然俺の記憶と違う……。
しかも、俺、親父のアカウントを持っていないんだけど……。姉ちゃん、いつの間にか入手していたのかよ。
「後で親父のアカウントをくれ」
「りょうか~い」
姉ちゃんはスマホカバーをパタンと閉じて、スマホを机に伏せると五十嵐の方へ向き直る。
「そういえば、ひかりちゃん」
「はい、どうかしましたか?」
五十嵐は一旦テレビを見るのを止めて、姉ちゃんの方を向く。
「もうそろそろひかりちゃんのご両親にもご挨拶したいわ」
「えっ⁉」
五十嵐は突然驚いた声を出して、途端に慌て始める。
おいおい、目がめちゃくちゃ泳いでいるぞ。ワールドレコード出そう。
「え、えーっと……」
「あれ? ダメだったかしら?」
「えええ、いえいえ、そんなわけないですよぅ! だけど……」
そう、五十嵐は元々天使。元々人ではない。そのため、姉ちゃんが挨拶をしたいご両親はいない。
存在しない両親に挨拶したいと言われても……と五十嵐は困惑しているのだ。
「もしかして……」
姉ちゃんの言葉に、五十嵐は唾を飲み込む。
「ご両親海外?」
そして、姉ちゃんは五十嵐の言い訳の材料を自分で与えてしまう。
もちろん、五十嵐がこの機会を逃すはずはない。
「あ、はい! 実は両親ともども海外に出張に行っておりまして、当分日本には帰ってこないんです……すみません」
「あ、そうなのね。こっちこそ事情も知らずに言っちゃって……ごめんね」
「いえいえ、とんでもないです!」
五十嵐は安堵した顔でそう言った。
上手くごまかしたな、五十嵐。