「姉ちゃん、ご飯できたぞ」
「ちょっとまっててー」
夕食ができたので食卓に呼びかけると、姉ちゃんのそんな声。見ると、スマホを弄っているところだった。まあ、数分後には終わらせて食べ始めるだろう。
そして、リビングでテレビを観ているはずの五十嵐にもご飯ができた宣言をする。
「五十嵐ー、ご飯できたぞー」
「……」
「五十嵐ー?」
「……」
返事が無い。山口さんちのツトム君かよ。でも、ここからだったらテレビがついていても聞こえるよね? いくらなんでも無視するなんてことは無い……はず。
俺はキッチンから出て、直接五十嵐のもとへ向かう。カウンターからはこちらに背を向けてテレビを観ているように見えたんだが。とりあえず前に回って見てみるか。
「五十嵐さーん? ……って」
そして、俺は正面に回る前にコイツの横顔を見て気づいた。
「寝てるじゃん……」
五十嵐はこの前出したばかりの炬燵に足を突っ込み、半分伏せた状態で寝落ちしていた。
片方の手はテレビのリモコンの上。テレビを観ている最中に寝落ちしてしまったのだ。今頃は夢の中だろう。
それにしても、幸せそうな寝顔をしているな。あまりにも心地いいのか、口の端からヨダレが垂れているのだが。仕方ねえな……ティッシュで拭いてやるか。
しかし、それにしても無防備すぎないか?
ずっと見ていたら、目の前の柔らかそうなほっぺたを指でプニプニしたくなってきたんだが。あーヤバい、何この衝動、止まらねえ。
俺の自制心はあっという間に敗れ、衝動に駆られて俺は人差し指をゆっくり伸ばしていく。
ぷにっ。
「ふゃぁ……」
俺の指先が柔らかさを感じるのと同時に、五十嵐が気持ちよさそうにぼやく。
……起きていないよな? もう一回だけやるか。
ぷにっ。
「むにゅぅ……」
ぷにっ。ぷにっ。
「ふにぅ……」
ヤベえ……ハマった。主に触り心地と五十嵐の反応に。
俺は何度も五十嵐の頬をつついていく。五十嵐は眠りが深いのか、起きる気配はない。
あー、このままずっと続けていたい……。
「何やってるのよ、慧」
「うおっ! ね、姉ちゃんか……」
突然後ろから底冷えするような声がして、振り返るといつの間にか姉ちゃんが白い目でこっちを見ていた。
全く気づかなかった……。
「ひかりちゃんに変なイタズラしてないわよね?」
「も、もちろん」
今のヤツを除けば、だが。
「それより、起こさないの?」
「あ、うん。……おい、起きろ」
「むにゃぁ……?」
五十嵐の肩を掴んで少し揺すると、五十嵐はようやく顔を上げた。目がとろんとしていて今にも寝てしまいそうだ。
「夕食だぞ」
「ふぇ? うん……」
もにょもにょと口を動かしながら、五十嵐はゆっくりと立ち上がって食卓の方へ向かった。
さっきは普通に可愛かった。うん。