帰宅してから数十分。そろそろ夕食を作る時間だ。
俺は勉強をいったん中断して、一階に降りて台所へ向かう。
と、台所に入ったところで俺に気づいたのか、五十嵐が話しかけてきた。
「そういえば慧、その……デート、の日にち、いつにする?」
「お、おう……そうだな……」
ヘイヘイヘーイ、五十嵐さんヨ、その顔をほんのり赤くしながらちょっぴり上目遣いで少し恥ずかしそうに『デート』と言うのをやめてもらえマスカ~? こちらもものすごく意識せざるをえなくなってしまうんだが。というか、この前は普通に言ってたよね?
そんな俺たち二人の様子を、いつの間にか帰っていた姉ちゃんは、食卓からニヤニヤして静かに見守っている。
落ち着け、俺。この程度で動揺してはいけない。頭を冷やせ。
数秒間考えるふりをしてクールダウンをした俺は、脳内スケジュール帳を開いて予定を確認する。
「そうだな……二十五日はどうだ?」
「「クリスマス当日⁉」」
何故姉ちゃんまで驚いているんだよ。
まあそれは無視しておいて、俺は淡々と理由を説明する。
「ちょっと混むかもしれないけど、イルミネーションもやるし、予定も空いているだろ? それにこのチケットはフリーパスも兼ねているから、それぞれの乗り物のチケットを買う時間も省けるはずだ」
「そっか……じゃあその日にしよう」
即断即決。これでデートに関しては完全に決まった。
今の所、二十四日にクリパ、二十五日にデートということになっている。めっちゃ忙しいな。
「ところで慧、ひかりちゃんのこと、名前で呼ばないの?」
「え?」
そんなことを考えていると、姉ちゃんから意図しない質問。
反射的に『なんで?』と聞き返すのをこらえ、俺は動揺を隠す。
「もうそろそろひかりちゃんが来て一カ月くらいだし、それに二人は許嫁でしょ?」
「ああ、うん。まあ」
「それで、ひかりちゃんの方は慧のことを名前で呼んでいるのに、慧はひかりちゃんのこと、名前で呼んでないじゃん」
「……まあ、確かに」
「しかも、慧は最初ひかりちゃんのこと名前で呼んでいたでしょ? もしかして恥ずかしくて言えないのかな~?」
「いや、そんなわけでは……」
「じゃあもしかして、名前では呼びたくない理由でもあるのかな?」
「……姉ちゃん」
「ごめんごめん、でも名前で呼んであげないと、ひかりちゃんがかわいそうだよ?」
姉ちゃん、いったいあんたは俺の何なんだよ。姉か。
そして、五十嵐の方を見ると……ものすごく期待している表情だった。
はぁ……。仕方がない、一回だけ呼んでやるか。俺はできるだけ何も考えずにその名を口にする。
「ひかり」
「はうっ」
瞬時に五十嵐の顔が真っ赤になっているんだけど。ヤバい、こっちまで恥ずかしくなってきた。
「ひゅ~」
そんな中、一人だけ姉ちゃんは俺たちを冷やかしていた。