今日もゆる~い感じの担任がSHRを終わらせて、放課後に突入する。
俺は鞄に教科書類を詰め込みながら、ふと思った。
五十嵐は俺と一つ屋根の下で暮らしている。つまり住んでいる家は同じ。即ち、帰り道まで全く同じ。当たり前だ。
……気まずい。
どうしよう。俺の家と学校の距離からして、通学は電車に頼らなければいけないので、帰り道のパターンは限られる。一応別の路線を使う手もあるが、わざわざお金をかけるほどのことか? と聞かれると、そうでもない。
……仕方ない、ここは俺が図書館で時間を潰して電車に乗る時間をずらすか。その間に、五十嵐のことをじっくり考えればいいだろう。
そう心に決め、よいしょ、と荷物を持って教室を出て行こうとしたその時だった。
「なぁ慧、一緒に帰ろうぜ~」
「え」
おい、フラグ回収かよ。しかも、ただ誘ってくるだけじゃなくて、何故か腕までガッチリ押さえられている。悪意しか感じないのは俺だけか? というか、もっちー今日部活じゃなかったっけ?
「え、いや、俺図書かん……」
「そんなこと言わずに~」
「は、放せよ!」
き、気持ち悪い! 口調が何故かオネエっぽい! 俺はオネエもっちーにより教室の外へ引きずられていく。何気に腕力が強いので振りほどけない。やはり俺が帰宅部でもっちーが運動部だからだろうか。
「え、ちょ、ちょっと!」
後ろを振り返ると、予想通りというべきか、水無瀬に手を引っ張られていく五十嵐。こちらも困惑気味だが、手を引かれるまま体を任せている。何気に従順だな、お前。
いやいや、重要なのはそこではなくて。
「お前ら、いつの間にか結託していたのかよ!」
「さあ、何のことかな?」
「我はフンフツィヒ・シュトルムと居城への道中を共にしようとしただけだが」
しらばっくれるなよ⁉ くっそー、お前らぜってー仕組んでいるだろ!
「放せ!」
「まあまあ、ちょっと待てよ」
そして激しく抵抗する俺を押さえつけたまま、もっちーは器用に自分のスマホを取り出すと、誰かに電話をかける。
「……あ、もしもし、先輩っすか? ちょっと手伝って欲しいことがあるんで、すぐに一年C組の教室の前まで来てもらっていいっすか? ……あ、はい。そうっす。じゃ、お願いします」
「おい、今誰に電話をかけた」
「~♪」
もっちーが口笛を吹いて誤魔化すのを見て俺は悟った。絶対アイツだ!
そして数秒もしないうちに、廊下の向こうからドドドというものすごい音が聞こえてきた。
「けい~! お姉ちゃんが会いに来たよ~!」
くそー、よりにもよって最悪の相手を呼び出したな! このブラコン姉も俺より強い。
「舞先輩、ごにょごにょごにょ……」
「……うんうん、了解!」
「じゃあ、後は頼みまっせ。じゃあな、慧! 上手くやれよ!」
もっちーは姉ちゃんに俺の拘束を代わってもらうと、爽やかにそう言い残して廊下を駆けていった。
「くっそー! 恨んでやるー!」