五時間目。俺は半分上の空で授業を聞いていた。
残り半分は、脳内の考え事にずっと使っている。
そのお題は、ズバリ、『好き』っていったいなんだろう、ということだ。
確かに俺は五十嵐のことは気になりつつある。だって、たまに見せるわざとなのか天然なのか分からない上目遣いとか、俺のこと好きなの⁉ とか思ってしまうような発言とかするんだもん。こんな奴と一カ月間、一つ屋根の下で暮らしていたら多少なりとも気になってしまうでしょ。
それが、果たして異性に対しての『好き』に当たるのかどうか。
うーん……分からん。好きってホントなんなんだろう……。
それにしても、五十嵐と顔を合わせづらい……。俺が放送室にいる間、教室で何が起こったのかは知らないが、この十数分の態度から、どうやらアイツも俺と同じような状況に陥っているっぽい。確証はないけれど。
でもこれだけは言える。絶対にこれはもっちーの仕業だ。うん、そうとしか考えられない。何やってんだよやってくれたなもっちー。
「はぁ……」
なんかさっきからため息しか出てこねぇ……。出口のない思考回路を延々とグルグルしているからだろうか。気持ちも沈みつつある。
本当ならこの気持ちを抑え込んで、五十嵐に直接聞ければいいんだが、俺はそこまで勇気のある男ではない。
俺の真後ろの席に座っている五十嵐とは、もう昼休みが始まって以来ずっと喋っていない。たった五十センチしか離れていないが、その五十センチが余計に話しかけづらさに拍車をかけているのだ。
「あ」
五十嵐が突然小さく声をあげた。その直後に聞こえるのは、シャーペンが床を打つパチン、という音。多分、何かの拍子に腕が当たってしまい、床に落ちてしまったのだろう。あるあるアクシデントだ。
転がる音を頼りに俺の机の右斜め後ろを見てみると、五十嵐の持ち物であろうシャーペンがこっちに向かって転がってきていた。
十分手が届く範囲だし、拾ってやるか。
そう思って、俺が何気なく手を伸ばすと、不意に向こうから伸びてきた誰かの手と触れた。
「「あ」」
思わず反射的に手を引っ込め、視線をその手から顔の方へと辿っていく。
やはり、五十嵐だった。彼女も俺と同じように俺の顔を見ている。
俺たちは同時にサッと目を逸らした。ものすごーーーーく気まずい……。
結局シャーペンは、五十嵐が回収した。そしてまた悶々とした時間がやって来る。
この雰囲気、誰かなんとかしてくれええええ!
だが、虚しくも俺の願いは全く通じなかった。
今の一連の出来事を見ていたのか、隣から水無瀬が余計な一言。
「……貴様等、初々しいカップルか?」
「「なっ⁉」」
俺たち二人は同時に全く同じ反応をしてしまう。それにも恥ずかしさを覚えて、慌てて授業を聞くふりをする。
悪化させるなよ! この状況、マジで本当に何とかしてくれええええ!