「ただいま~」
「お帰り」
帰宅後、俺が勉強していると姉ちゃんが学校から帰ってきた。今日も生徒会業務で忙しかったのだろう。
てか、ウチの生徒会ってこんなにハードだったっけ? 姉ちゃんは毎日残業している気がする。ブラック企業ならぬブラック生徒会か? 母さんの勤めている会社も相当ブラックだし、ウチは『ブラック』と何か縁があるのかもしれねえ。ああ、嫌だ嫌だ。
俺は休憩がてら、階下のリビングへ向かう。と、リビングのソファーで姉ちゃんがブルっと震えていた。
「う~さぶいわ」
「それは姉ちゃんが薄い格好をしているからだろ」
「そう?」
いや十分薄いって……。マフラーも手袋もしないでタイツも履いていないならそりゃ寒くて当たり前だ。今の時期の最高気温は十度くらい。最低気温は氷点下。この環境で防寒対策を何もしない姉ちゃんはおかしい。逆に何故そうしなくても大丈夫なのか知りたい。
「……家の中も結構寒くなっているわね」
「そりゃそうだ。というか随分前から寒いけどな」
「じゃあ、もうそろそろ『アレ』を出す時期じゃない?」
「アレ?」
アレってなんだよアレって。指示語だけじゃ分からん。
「コタツよ。コタツ!」
「ああ、炬燵ね」
炬燵か……。そういえば我が家では毎年出していたな。確か去年の春頃におさらばしてから会っていないな。……どこにしまったんだっけ?
姉ちゃんはソファーに荷物を置くと、早足で廊下を進む。
「ほら慧、コタツ出すわよ!」
「あ、ああ」
俺の前で、姉ちゃんは廊下の突き当たりの物置の扉を嬉々として開ける。その一番手前に、我が家の炬燵はデーンと鎮座していた。
早速姉ちゃんは炬燵を挟んで俺の向かい側に回ると、片方の端を持つ。
「運ぶわよ!」
「お、おう……」
せーの! という姉ちゃんの掛け声で、炬燵を持ち上げる。その途端、ズンと重みが俺の腕に圧し掛かった。
お、重い……。
対して、向かい側の姉ちゃんは余裕そうに支える。そして、持ち上げるのに必死な俺の様子を見て、余計に炬燵を持ち上げてくる。
「ほら~そんな弱虫でどうするの~」
「う、うるせー」
姉ちゃんが怪力なだけだ! もちろん、そんなことを口に出したら、俺はその怪力でひとたまりもなくなってしまうだろうから、黙っておく。
廊下を後退してリビングに突入すること数メートル、向かい合ったソファーの間に、よっこいしょーと炬燵を下ろした。
早速プラグをコンセントに差し込み、スイッチオン! 炬燵が本来の能力を発揮するまで少しかかるのでそのまま放置する。
と、姉ちゃんがソファーに置いた荷物を持ちながら、
「慧、そろそろ夕食作らないとヤバいんじゃない?」
「……確かに」
時計を見ると、もう六時前。そろそろ夕食を作り始めないと、いつもの時間に完成しなくなるだろう。
ちなみに、ここで『姉ちゃんが作れよ』なんて言うと、夕食がジャイ〇ンシチューになるので、禁句である。
俺は早速、台所に立って、夕食の支度を始めるのだった。