「なあ、慧」
「どした」
今は昼休み。俺ともっちーと水無瀬は机をくっつけ各々の弁当を広げる。
そんな時、もっちーはさらりと爆弾を放り込んだ。
「結局、五十嵐さんと恋人なの?」
「「ぶぶっ‼」」
……俺たちは盛大に吹き出した。ん? 俺たち?
「何故水無瀬まで吹き出しているんだ……」
「貴様が突然こんな質問をするからだろう!」
水無瀬はお茶を飲んでいる最中だったので、吐き出すのはこらえたようだが、気管に入ったのか言った傍からむせる。
『我は時を駆けし者!』とか普段から言っている癖に、この展開が予測できなかったようだ。
ふと周りを見渡してみると、教室中から視線が注がれている。どうやら注目を浴びてしまったらしい。離れた所で別の友達と食べている五十嵐までこっちを見ている。
俺は仕切り直す意味で咳払いをして、音量を下げてもっちーに聞き返す。
「というか、前にも同じ質問しなかったか?」
「いや、前は『お前と五十嵐さんって許嫁だろ』って聞いた。厳密には質問じゃなくて確認みたいなものだけどな」
……そういえばそうだったな。
「でも、何故そんな質問を?」
「気になったから」
……適当なはぐらかし方だ。きっと裏に何か狙いがあるとは思うが、追及してものらりくらりとかわされるだろう。もっちーはそういう人物だ。
「で、どうなの?」
だから、俺は正直に答える。
「恋人ではない」
「それは本当か⁉」
ガタン! と水無瀬が勢い良く立って身を乗り出してくる。近い近い! 顔が近いよ!
「お、落ち着けって水無瀬」
「あ、うん……」
もっちーが言うと、水無瀬はハッとして席に座る。コイツ、恋愛の話になると途端に食いつくんだよな……。そんなに俺の恋愛事情に興味があるのか。
「で、でも、許嫁というのは恋人ということではないのか……?」
「何故許嫁のことを知っているかは置いといて、許嫁は必ずしも恋人と同義だと限らないんじゃないか? 例えば、親に強要されて許嫁になっている場合みたいに。慧や五十嵐さんがそういう関係だと言いたいわけじゃないけどさ。でも、こういうことは、オレら三人の中だったら水無瀬が一番詳しいはずだろ?」
「……確かに。許嫁≠恋人だな。では何故、フンフツィヒ・シュトルムは此奴を名前で呼んでいるのだ?」
「そりゃ、舞さんと区別するためじゃねーの?」
「そうか……」
おーい、二人ともー。俺抜きで勝手に話を進めないでくれよー。
とみょんみょん発している俺の電波を受信したのか、もっちーが俺に聞いてくる。
「一つ屋根の下で暮らしていても、恋人ではないのか?」
「ああ」
実際、俺は五十嵐に告っても告られてもいない。只の同居人、許嫁である。
真剣な表情で三秒ほど見つめ合う。そして、フッともっちーは表情を緩めた。
「ふーん、怪しいなぁ~」
「本当だ!」
「はいはい、冗談だよ」
もっちーは何事も無かったかのように、弁当を食べ始める。
その一方、水無瀬はというと。
「ひ、一つ屋根の下……」
そのワードでKOされ、頭から湯気を出して机にぶっ倒れていた。
おいおい、大丈夫か⁉ どうやら水無瀬には刺激が強すぎたらしい……。