「ただいま~」
「お帰り」
学校が終わり、家で夕食の準備をしていると姉ちゃんが帰ってきた。
期末試験が終わったばかりだというのに、姉ちゃんは生徒会で本当に忙しいんだな……。
でも、そんな姉ちゃんに俺は遠慮というものをしない。むしろ追撃する。
「姉ちゃん、テストどうだった?」
「それがね~」
あれ? 姉ちゃん、これ聞かれたくない話題じゃないの? てっきり顔を顰めて『それ聞いちゃう?』とか言ってくると思っていたが。そんな俺の予想に反して、姉ちゃんはどこかウキウキした顔で、バッグの中から個票を取り出した。
「じゃーん‼」
盛大に強調して姉ちゃんが掲げた個票には。
「あの姉ちゃんが平均点を超えている……だと⁉」
いつも赤点間際の点数ばかりが並ぶ個票に、平均点を上回る点数がいくつも印字されていた。
嘘だろ……。あの姉ちゃんが、平均点を上回っているだと……? これは、明日は空から槍が降るな。
姉ちゃんはそんな俺の反応を見て、へへーん! と自慢げだ。
「これでスマホは取り上げられないわよね!」
「あ、ああ。そりゃもちろんだろ」
何せ、いつも赤点間際の姉ちゃんが急に点数を上げてきたんだからな。母さんもそこまで鬼じゃない。
「授業も大丈夫だよね!」
「それは知らん」
そこまでは知らない。これからの姉ちゃん次第としか言いようがない。というか姉ちゃんは本当に大丈夫なのか? 授業中寝ていないよな?
「それで、慧はどうだったの?」
「俺はいつも通り」
「ふーん、ひかりちゃんは?」
「五十嵐は数学がギリギリ赤点回避。その他は満点近い」
「へー、すごいね!」
「姉ちゃんも見習ってほしいんだが」
「うっ……頑張るわ……ってそれは慧もでしょ!」
「……そうだな」
ブーメランが突き刺さった。俺も五十嵐に負けないようにしなくては。
会話が一区切りしたところで、姉ちゃんは新しい話題を振る。
「そういえば、デートの場所決まった?」
それを聞いてくるか。まあ、提案した本人としてそれは心配なのだろう。というかよく考えてみたら、『デートをする』という事実を残して、日時や場所などの後のことは俺たちに全部丸投げしているよね、姉ちゃん?
ま、順調に決まりつつあるからいいのだが。
「ああ。この前買い物に行った時に水無瀬に会って」
「へー珍しいねー」
「その時遊園地のチケットを貰った」
「あー二つ隣の街のあそこ?」
「そう。めちゃめちゃチケットが取りにくいところ」
「さすが、すみれちゃんだねー」
惜しげもなくくれるなんてな……。水無瀬には本当に感謝だ。
「じゃあ、これでデートは決まりだね!」
「ああ。後は日にちだけだ」
「それはひかりちゃんと一緒に決めるべきだわ」
「そうだな」
俺はコンロの火を弱めながら答える。
デートの日か……。いつにしよう……。