「は~い、では個票を渡しま~す」
週が明け月曜日。朝のSHRで期末試験の結果一覧である、個票が手渡される。
ドキドキする……。これで、この高校に入ってから通算四回目だが、慣れる気配はない。これからもきっと慣れないだろう。
俺の出席番号は『雨宮』とだけあって三番。かなり早い。後ろにいる五十嵐は『い』だが、転入生なので最後だ。
「雨宮く~ん」
「は、はい」
緊張の一瞬。個票が渡されると俺はそれを見ずに、折りたたんで席に戻る。
そして座ると、悪い点数でないように祈りながら、それをゆっくりと開いた。
「お! いいじゃん!」
前からもっちーが身を乗り出し覗き込んでくる。
「いいと言っても平均だがな」
テスト結果はいつも通り、全ての教科で平均から五点以内だった。良くも悪くもない。学年順位も真ん中。
まあ、俺はいいとして、問題は五十嵐だ。
「はぁ……ドキドキする~」
数分後、先生に名前を呼ばれて個票を受け取った五十嵐が、それを折り畳んだまま戻ってくる。
「自信無いのか?」
「うん……」
確かに試験直後は自信無さげだったもんな。
「大丈夫だ、五十嵐。数学の平均は五十三点。二十七点で赤点回避だ」
「そっか……。ふぅー……じゃあ開くよ!」
えいっ! と五十嵐は紙を開いた。一瞬の静寂。
そして、それを打ち破るように、五十嵐は声をあげた。
「やったー! 赤点回避だった!」
嬉しそうに少し飛び跳ねながら、五十嵐はこちらに紙を見せてくる。その数学の欄には、確かに『30点』と書かれていた。
確かに赤点は回避しているが、平均点を大きく下回っていることには変わりない。それに、だ。
「底辺クラスの点数だけどな」
「うっ……」
五十嵐は痛いところを突かれた、というような顔をする。
「ま、留年になりたくなきゃ数学の勉強を続けることだ」
「うん」
それにしても、他の教科はほとんど完璧にこなしているのな……。数学以外の教科では満点に近い点数が並んでいる。
「フフフ……それでも我には及ばないようだな」
そう意味ありげに眼帯をしている左目を押さえる水無瀬。そして、バサッと個票を掲げた。
「水無瀬さん、すごいね……」
そこには『100点』という凄まじい数字が並んだ個票。次元、いや宇宙が違う。
このレベルを見せつけられると、嫉妬や畏怖を通り越して、逆に何も感じなくなってくる。
「……お前って、やっぱり頭いいんだな」
「フフフ、我にはこの程度の試験は些事に過ぎぬ。されど戯れるのもまた一興……あう」
だが言い方にムカついたので、丸めたノートで軽く頭をペシと叩いた。
水無瀬は恨めしそうな視線でこちらを睨んでくるが、俺はサラッと受け流す。
「オレはいつも通りだったな~」
もっちーの個票を見てみると、確かにいつも通り、理系科目が平均より高く、文系科目が平均より若干低い点数だった。
「それじゃ~、これでSHRを終わりま~す。今日も一日頑張りましょ~」
そう言って、担任が教室から去ると、早速もっちーが俺たちの方を向いて言った。
「なあ皆、クリパやらね?」