「フフフ……それでは詳しく話して貰おう」
目の前にはオレンジジュースを飲んでいる水無瀬。
その向かいにそれぞれ飲み物を持って俺と五十嵐は並んで座る。
俺たちは買い物を終え、ついでに水無瀬の買い物も手伝わされた後、フードコートに移動した。
ちなみに飲み物は全て水無瀬のおごりだ。
「貴様等、恋人の契りを交わしていないのなら一体どのような関係なのだ? 下界では恋人の契りを交わさない限り年頃の男女が二人で共に行動することは無いはずだが」
俺と五十嵐は顔を見合わせて、小声で会話する。
「教えちゃっていいかな?」
「……ああ。コイツは信用できるし、バラしたとしても、中二病だから周りからその言葉を信用されることは無いはずだ」
「……そうなんだ」
「おい貴様等小声で何を話している。もしや本当に恋人の契りを交わしているのではないだろうな⁉」
ガタン‼ と水無瀬は顔を紅潮させ、興奮した様子で立ち上がる。
「違う、落ち着いて座れ。というか何故そんなに焦っている」
「焦ってなどいない! ……では貴様等はどんな関係だ」
水無瀬は座りながら俺に疑いの目を向ける。
俺は深く息を吐きだすと、意を決した。
「俺たちは、許嫁だ」
「…………」
空間が時間ごと凍結したようだった。周りの喧騒がどこか遠くから聞こえる感覚になる。
固まった水無瀬は、数秒後に再起動を果たした。目の焦点が合って、口の形が徐々に変わっていく。
そして、笑い始めた。
「フフフ……ハハハ……ハーッハッハッハッハ!」
「ど、どうしたの……?」
水無瀬はひとしきり笑うと。
「そうかそうか、貴様等は前世より古の絆を持ち、現世にて再会した因縁ある者なのか!」
「あー……まあ、そうだ、な」
そんな因縁はございませんが。もしあったとしたら、俺はいったい前世で何をやらかしたのだろうか。
「ならば、何故このことを隠している?」
「騒ぎになるのを避けるためだ。ほら、ウチのクラスって人の恋バナに異常に敏感だろ? バレたらめんどくさいことになる。だから誰にも言うなよ」
「時を駆けし者、ヴァイオレント・ウォーターレスシャロウの名に懸けて誓おう」
「ありがとう、水無瀬さん」
「う、うん」
水無瀬は見かけや言動によらず、信用できるから、きっと大丈夫だろう。
その水無瀬は、何かを思いついたようで財布の中を漁り始めた。
「ならば、これを持っていくが良い」
そう言って差し出してきたのは、この地域最大の遊園地のチケット。しかも、なんと一日フリーパスときた。
「こんないいもの……いいのか?」
このチケットはかなり高く、今は時期が時期だからものすごく入手しにくい。本当に貰っていいのか?
「うむ。我にとっては只の紙屑……然るべき者に使われる方が吉に決まっている」
「ありがとう、水無瀬さん!」
「ど、どういたしまして……」
こうして、思わぬ形でデートの場所が確定したのだった。