「「デート⁉」」
「そう、デート」
その日の夕食中のことだった。
ニコニコする姉ちゃんを前に、俺たちは驚きの声をあげ、そして顔を見合わせた。
おいおい、急に何を言い出すんだ⁉ デートだって⁉
「何故急にそんなことを?」
「だって、ひかりちゃんがこの家に来てからもうそろそろ一ヶ月になるじゃん」
「……まあ、確かにそうだけど」
五十嵐――セラフィリが俺の前に現れたのは、正確には今からおよそ三週間前の朝。その時には、まさか許嫁という設定でこの家に住み着き、俺と同じ高校に通うことになるなんてこれっぽっちも想像できなかったけどな。
「許嫁なんだからデートくらいしてもいいじゃない」
「……まあ、そうかもしれないけど」
俺としてはこんな危険人物とデートするなんてまっぴらごめんなのだが。天使の力がなく、俺を殺すつもりはないと言っているとはいえ、まだ完全に信用しているわけではない。
「ねえ、ひかりちゃん。デートしたいよね?」
「はい! したいです」
五十嵐は目をキラキラさせてこっちを向く。うぐぅ……。断りづれぇ……。俺ってスゴく押しに弱い。
俺の返事が無いのを心配したのか、五十嵐は念押しするように上目遣いで首を傾げてくる。
「わたしとデートするの、いや……?」
「お前いつそんな技を覚えた」
あまりにも自然すぎたので、思わずツッコんでしまった。てかコイツ、デートしたいほど俺のこと好きなの? ねえ、俺のこと好きなの⁉
確かに顔とか性格とかいいけどさ、でもコイツ殺人未遂の天使だよ? そんな奴に好かれてたまるか!
「ほら、ひかりちゃんもこう言っているし、デートしちゃいなよ~」
姉ちゃんはあくまで優しい口調で言っている。しかし何故だろう、圧力を感じるのは俺の気のせいだろうか。『早く二人でデート行けよ』って姉ちゃんから心の声が聞こえてくる。
そして、俺の前からは相変わらず五十嵐の視線。女子二人の無言の圧力が俺にのしかかってくる。
ここは、俺が折れる以外の選択肢は無さそうだった。
「……わーかったよ。分かった。二人で出かければいいんだろ」
「いいの、慧⁉」
「やったね、ひかりちゃん!」
「はい! 嬉しいです!」
やったーと二人はハイタッチ。何故姉ちゃんも五十嵐と同じくらいハイテンションなんだ……。
まあ、とにかく俺にとってこれは初めてのデートということになる。うわ、そう考えたらものすごく緊張してきた。まだ何も決めていないのに。
「もちろん、お母さんにもこのことは話しておいたから、費用の面は心配しなくていいわよ~」
「母さんに話したのかよ⁉」
さっきまで決まってすらいなかったのに何という暴挙……。
「二人とも、頑張るんだよ!」
「は、はい……!」
「何をだよ!」
というわけで、俺と五十嵐の初デートが計画され始めたのだった。