「ふう……全く」
「……」
夕日が差し込む生徒会室で、元中二病で生徒会長の雨宮舞と、現役中二病で校則違反の水無瀬菫はソファーに向かい合って座っていた。
菫はぐったりしていて全く声も出ないほど疲れている。もちろん、こうなった原因は元を辿れば本人にある。
「全く……すみれちゃんは校則違反しすぎよ」
「フフフ、これも全て我が強大な力を抑えるためぇ……」
「先生にこってり絞られたわね」
菫はスカートの丈、カラーコンタクトの着用、その他諸々でついさっきまで生活指導の先生に延々とお説教されていたのだ。
幸い罰則は受けなかったが、菫は『我が名はヴァイオレント・ウォーターレスシャロウ……』と突っ込む気力も残っていないほど精神的に疲れた様子だ。
「すみれちゃん、ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
そんな様子の菫に、舞は生徒会長としてではなく、一個人、そして慧の姉として相談を持ちかける。
もちろん、菫は疲れているのでそんな相談を受けるはずもなく……、
「何であるかぁ……我は今休眠期に入ろうと」
「慧の恋バナなんだけど」
「フフフ我が助力が必要なようだな!」
一転して目を輝かせてやる気満々で、舞に『さあ、さあ……!』とそれを話すように迫った。
舞はそんな様子の彼女に若干引きながらも、話を切り出す。
「う、うん。それなんだけど、同じクラスに五十嵐ひかりちゃんっているわよね?」
「……誰?」
「えーっと、慧の後ろの席に座っている女の子」
「……ああ、あやつか」
一応今朝紹介を受けたはずなのだが、彼女の記憶にはほとんど残らなかったようだ。
「実はね、ひかりちゃん、慧といい雰囲気になっているの」
「⁉」
いつの間にか、そんな仲になっていたとは……と菫は真剣な表情で呟いた。
「私としては二人の仲が進展するように応援してあげたいのよ」
「ふむ。それで?」
「それで、何か二人をくっつける良い方法ってないかな、って」
「……ないことは無いが、レーゲンパラストよ」
「……なに?」
菫は舞の瞳を覗き込むようにして、珍しく真剣に問いかけた。
「もしや、あの件を忘れさせようとしているのではないのか?」
「違うよ」
舞は即答した。こちらも真剣な表情で菫に言う。
「慧には……早く安定して欲しいのよ」
しばし二人の間に流れる無言の時間。やがて、菫はふー、とゆっくり息を吐くと、
「……成程。ならば策を進ぜよう」
「本当⁉」
そして菫は鞄を漁って何かを取り出すと、舞の前に差し出す。
「これを用いて、デートをさせれば良い」
……舞の前に差し出されたのは、人気遊園地の一日フリーパス二枚だった。