「そういえば、期末試験の勉強はどう、ひかりちゃん?」
夕食を食べていると、突然姉ちゃんがそんな話題を振ってきた。
「あ、はい。放課後に慧やクラスメイトに教えてもらっています」
「そっかー」
姉ちゃんはニヤニヤしながらこっちを見てきた。や、やめろよ。
「慧もひかりちゃんに優しく教えてあげてね」
「それはもっちーと水無瀬の役目だ。それより姉ちゃんはどうなんだよ?」
「え、えーっと……大丈夫、なはず?」
「めっちゃ自信ねえじゃねえか! 平均を下回ったらスマホ取り上げなんだろ⁉」
「そうだった!」
「忘れていたのか⁉」
姉ちゃんはガタンと勢い良く立ち上がる。頭の方があまりよろしくない姉ちゃんにとって、この問題は非常に重要であるはずだ。じゃあ何故今まで忘れてたんだよ⁉ 頭がよろしくないからか!
「勉強しないと! ごちそうさまでした!」
姉ちゃんは爆速で食べ終わると、二階の自室へと上がっていく。
「わたしも数学勉強しなくちゃ……」
「そうか」
「慧、教えてくれる……?」
「いや、俺も勉強を……」
うぐっ。ひ、卑怯だ。コイツ上目遣いを使ってくるなんて。これじゃ強く出れねえじゃねえか……。
「……はぁ。仕方ねえな。後で教えてやるから俺の部屋に来い」
「うん! 分かった」
五十嵐は嬉しそうに笑った。
☆★☆★☆
「それでここはここ、ここはここで」
「うんうん」
部屋の時計の二つの針はどちらも十二を示している。
俺は五十嵐に自分の机を使わせ、その横から立ったまま教えていた。
夜も深くなってきているが、それに比例するように五十嵐の数学力は増している。
「なあ、五十嵐」
「ん?」
「お前、他の教科は大丈夫なのか? 世界史とか古典とか」
「それなら大丈夫。神にインプットされている知識で全部できるはずだから」
「そうか……」
じゃあ何故数学はできないんだろうな。
ふわぁ……。それにしても眠い。
俺は雨宮家の家事を引き受けている身。朝が早いため普段こんな時間まで起きていることはめったにない。
ちょっと下でコーヒーでも飲んで目を覚ますか。明日は午前で終わりだから弁当を作る必要が無い。ちょっとくらいなら夜更かしをしても大丈夫だ。
「じゃ、区切りいいし五分休憩するか」
「うん」
俺は階段を降り、冷蔵庫の中の缶コーヒーを開けて飲み干す。
コーヒーのカフェインが俺の眠気を取り払っていく。
「……よし、もうちょっと粘るか」
缶を洗ってゴミ箱に放ると、再び階段を上がって自室に戻る。
「勉強再開するぞ……って」
ガチャリとドアを開けると、五十嵐は机に突っ伏していた。
少し揺らしてみるも、五十嵐が顔を上げる気配はない。
「寝ちゃったのか……」
このまま起こそうか……。いや、やめておこう。
俺はその代わりに毛布をその背中にかけてやる。同じ部屋のベッドに寝るのは……流石にちょっと俺の精神が持たない気がする。今夜はリビングで寝るしかなさそうだ。
部屋の電気を消し、ドアを閉める。
「おやすみ」