放課後、俺たちはこの前と同じように図書館の自習スペースで勉強する。
ただし、メンバーは一人欠けて俺と五十嵐の二人だけ。もっちーは家の用事とかなんとかでさっさと帰ってしまった。試験前日なのに大変だな。
……というか今考えたら、俺と五十嵐を二人きりにする作戦だったのだろうか⁉ 帰り際に妙にニヤニヤしていたから、きっとそうなんだろうな!
「それで、ここのところはこれがこうなってこうなるから」
「あ~なるほど」
現在は五十嵐に数学を教えているところだ。
彼女の学ぶスピードは速い。どうやら五十嵐は、理解が早く物覚えも良いようだ。その結果、この前までは方程式も満足にできなかったのに、今では今回の試験範囲まで進んできている。
このペースで勉強が進めば、テストで俺の点数を軽ーく抜かしちゃうんじゃ……?
俺もうかうかしている場合じゃねえな。あれだけダメダメだった五十嵐に追い抜かれちまう。
しばらく集中して勉強していると、突然自習スペースの部屋のドアが勢いよく開いた。
「我、ここに参上!」
「「うるさい」」
「ごめんなさい」
騒々しく自習室にやってきたのは水無瀬。
水無瀬は五時間目が始まる前にいったん教室に戻って来て、SHR後にまた姉ちゃんに連れ去られた。
きっと生徒会室でこってり絞られてきたのだろう。その割には、あまり効果が無いように見えるが……。
「お前、何故ここが分かった?」
「我が神聖なる魔」
「正直に言え」
「……我が盟友に教えてもらった」
姉ちゃんが教えたのか……。って姉ちゃん何故知ってるんだ⁉ このことは話していないはずだが⁉
まあ、そのことは置いといて……。
「で、お前結局生徒会で何か言われたのかよ?」
「特に何も……だが組織の精鋭による精神攻撃を三十分間受けた」
「三十分間説教されたんだな」
「なんで翻訳できるの?」
「三年くらいこの中二病と接していくと理解できるようになるぞ」
これの攻略法は、ズバリ、慣れだ。
水無瀬は俺たちの机の空席に腰掛けて、勉強道具を広げ始める。
そしてシャーペンを出すと、ものすごい勢いで問題を解き始めた。
「……そういえばここにいたな、天才様が」
「え、水無瀬さん勉強できるの⁉」
「ああ」
カリカリカリとシャーペンを走らせる水無瀬を前に、俺は五十嵐に説明する。
「水無瀬は中学時代、学力はトップだったんだ」
「……そうなんだ、意外だね」
人は見かけによらないというのはまさにこのことである。
俺たちが話している間にも、水無瀬は問題を解き続けると、突然机にシャーペンを置き、ノートを俺の方に差し出してきた。
「正否」
「自分でやれよ」
「解答集が異界に転移した」
「はぁ……」
失くしたのならしょうがない。俺は自分の解答集を取り出して、水無瀬の答えを採点していく。
「おお……」
もちろん、全問正解だった。五十嵐が横から驚きの声をあげる。
「フフフ、我が頭脳の明晰さが良く理解できたか」
「すごいね、水無瀬さん! わたしにも教えてよ」
「やめとけ」
まあ、教わりたい気持ちはよく分かる。だが、コイツは明らかに勉強を教えるには不向きだ。
「コイツに説明させると、全部中二言葉になるから」
「……そうなの?」
「……我が高尚な言語を理解出来ぬとは、哀しい輩……」
「何故二人とも俺をそんな残念そうな人を見るような目をする⁉」
水無瀬はともかく、何故五十嵐までも俺をそんな目で見るんだ! まさか、普段は中二言葉でも、勉強の時まではここまでではないだろう、と思っているのか⁉ それは大きな間違いなのだが。
え……少数の立場に立たされたからなのか、なんだか自分の主張に自信が無くなってきた。水無瀬って、ちゃんと解説できる人だったか……?
「まあ、慧の言うことはともかく、水無瀬さん、ここ教えてもらってもいい?」
「む、絶対値のグラフか」
絶対値の二次関数か。確かに厄介なところだな。場合分けが面倒くさい。
「それで、この(4)を解説してもらってもいい?」
「良かろう」
五十嵐は、じっくり見ると、五十嵐に説明しだす。
「まず、結論から言ってこのグラフはゼロを起点とした縦棒を軸として直立対象である線になり、オメガを発現させる」
「……へ?」
五十嵐は、マヌケな声をあげて、フリーズした。
ほーら言わんこっちゃない。
この後、俺が翻訳を挟んで説明することになった。水無瀬はその変な言い回しさえ止めれば、教えるのは上手になると思うんだけどなあ……。残念系の天才であった。