昼休み、俺ともっちーは昼食を食べ始める。
ちなみに五十嵐は、俺たちとは離れた向こうの方で、女子と一緒に昼食を食べている。まだ転校してきてあまり時間が経っていないのにものすごく馴染んでいる。コミュ力高すぎだろ。
俺たちがいつものように机を向かい合わせにしてくっつけていると、
「邪魔する」
と水無瀬が自分の机をくっつけてきて闖入(ちんにゅう)してきた。
そして、俺たちが何か言うよりも早く、水無瀬は弁当を取り出すとハンカチを開いて蓋を開ける。
「おお、水無瀬やっぱりお前の弁当スゲーな」
「フフフ、我が下僕(サーヴァント)に献上させているからな……味も見た目も一級品だ」
「くっ……!」
水無瀬の弁当はものすごく高級感が溢れていて、しかもそれでいて遊び心や色合い、更に栄養の面まで考え抜かれている。なんかものすごく敗北感があるのだが……。
一口食べて顔を綻ばせているのを見る限り、味もスゴく良いのだろう。羨ましい。
「そういや、水無瀬が来るのも久しぶりだな」
「ム、貴様はヴァルプルギス・フルムーンではないか」
「今までオレの存在に気付いてなかったの⁉ あとダサいからその名前で呼ぶなよ!」
望月(フルムーン)光真……、いや、降魔(ヴァルプルギス)か。久しぶりに聞いたが、やはり水無瀬のネーミングセンスは健在だな。
「ム、折角名付けてやったのに……カッコいいとは思わないか?」
「全然」
「うぅ~」
こっちの方を見てきたので俺が当然のように否定したら涙目で睨まれた。
いや、お前のネーミングセンス最悪だよ。だいたい、お前の二つ名だってめっちゃ長いし言いにくいし。
俺たちはそんな風に他愛のない会話を繰り広げていく。
その中で、ポツリともっちーが。
「なんか懐かしいな、こんな風に三人で食べるの」
「そうだな。中学以来だ」
「我が覚醒し時からもう三年も経ってしまったのか……」
俺たち三人は同じ中学校出身だ。だから、もっちーは水無瀬に対してだけは名字に『さん』を付けずに呼び捨てにしている。他のクラスメイトの女子を呼ぶときには、皆の名字に『さん』をつけているのだが。
すると、水無瀬が思い出したようにポツリと。
「あと一人、この場に居れば完全なる状態なのに……」
「「…………」」
俺たちの間に一転して重い空気が流れる。俺の意思に反して心臓の鼓動は高鳴り、脳裏には容赦なくあの日の記憶がフラッシュバックする。
クソッ‼ 落ち着くんだ、俺。こんなんじゃいつまで経っても乗り越えられないじゃないか!
「……不快な思いをさせてしまったようなのだ。我としたことが……その、ごめん」
「あ、ああ。大丈夫だ」
だが、重い沈黙は残り、俺たち三人の間に会話は無くなる。
……気まずい。
どうにかしてこの状況を打開すべく、適当に話題を振ろうとしてやっと俺が口を開きかけた、その時だった。
「失礼しまーす!」
ガラガラドン! と教室のドアを騒々しく開ける音と共に、聞き覚えのある声が教室に響く。
さっと振り向いた後、思わず一言俺の口から漏れた。
「姉ちゃん……」