めんどくせえ……。
中二病患者に自分は中二病じゃないと否定されたんだが。
逆にどう言い返せばいいのか分からん。
「我が名は、ヴァイオレント・ウォーターレスシャロウなり!」
大仰な動作で再び同じことを宣った中二病に、五十嵐はますます戸惑っている。
仕方ない。普通にコイツのこと紹介するか。
「えーっと、水無瀬(みなせ)菫(すみれ)、不登校で中二病だ」
「その名で呼ぶなー!」
その途端、水無瀬は顔を真っ赤にして、むぎー! と怒り始める。
おっと水無瀬さん、素が出てますよ?
つまり、このことに触れれば素が出るほど動揺するってことだ。なんて反応が分かりやすい。まるでどこかの五十嵐みたいだ。
「何か言った、慧」
「いや別に何も」
お、テレパシーですか? いや、でもコイツ天使の力は使い切ったはずだよな? もしかして口にしてた?
「それより、さっきのバイオレント……なんちゃらかんちゃらは」
「ヴァイオレント・ウォーターレスシャロウ!!!!!!!」
そんなにエクスクラメーションマークばかりつけなくていいから! 耳がキーンとする……。
「それはいったい何なの? それと、このよく分からない名乗り方には何か理由があるの?」
「ハッハッハ、実は我が身は世界の組織が暴」
「名前はただ英訳しただけ。名乗り方や言動はただの病気みたいなものだ」
「病気じゃないもん!」
しかも、ヴァイオレントって間違っているし。『菫』はヴァイオレント(暴力)じゃなくてヴァイオレットだ。英語大丈夫か? 中学校の復習をした方がいいんじゃないか?
「えーっと、この前転校してきた五十嵐ひかりです。よろしくね、水無瀬さん」
「ヴァイオレント・ウォーターレスシャロウ……うう、よろしく……」
最後まで自分の二つ名で呼んでもらえなくて、半分涙目になりつつも、律義に水無瀬は頭を下げた。
「ところで水無瀬、お前は何故今頃学校に来たんだ?」
「ハハハ、それは我が聖眼がこの地にて大きな時空変動による未来改変が」
「あーはいはい、単位ヤバいのな」
「……うぅ」
水無瀬はこちらを睨んできたが、否定はしない。つまり、俺が指摘したことは図星だったということだ。
まあ、普通そうなるよな。一学期の途中から不登校が続いていれば。
既に水無瀬の欠席日数は、留年の基準の三分の一に迫ってきていた。これからはほとんど休めないだろう。
「でも、なんで不登校だったの?」
「我がこの地に大きな影響を及ぼすまでこの身を温存して置く為!」
「へ、へぇ……」
後で五十嵐には中二病の概念を説明しておこう。
「フフフ……我はこれからこの地で特殊任務を遂行する!」
「いいから座れ、SHR始まるから」
「あ、うん」
……はぁ、これから周りが騒がしくなりそうだ。