期末試験が明日に迫っていた。そのせいか、朝の教室はいつもより静かで、自分の机で勉強している人も多い。
俺も勉強しないと。時間は有限だから有効活用するべきだ。俺は参考書を鞄から取り出すと机の上に広げる。
そんな時だった。
ガラバンッ‼ と教室後方のドアがいきなり盛大に開く。
うおっ! なんだなんだ⁉ いったい何があった?
周りのクラスメイト達も、驚いてドアの方向を見る。
その注目を一身に浴びる存在が一人、ドアの向こうに佇んでいた。
身長は低く、肩にかかるくらいの青みがかかっているように見える黒髪はツーサイドアップ、整った顔立ちの女子だ。この学校の制服を着ているから間違いなくここの生徒だ。
そして何より目立つのは左目にしている眼帯。それがただならぬ雰囲気を醸し出していた。
もしや、あれは……!
少女は皆が固まっている教室を見渡すと、突然右手で眼帯をしている左目を押さえて忍び笑いを始めた。
「……フフフ、我が迸る魔力に皆慄いているようだな」
あれは……!
持っていた鞄がドサリと床に落ちる。
少女は勢いよく右足を前に出すと、決めポーズと共に名乗りを上げた!
「皆の者、我にひれ伏せ! 我は時を駆けし者、ヴァイオレント・ウォーターレスシャロウなり!」
あれは……中二病じゃないか‼
そして、クラスは静まり返った。
少女もその恰好のままで固まる。
そのあまりにも痛々しい様子に、クラスメイトたちはそっと目を逸らし、何事も無かったかのように勉強を再開した。
雰囲気に残された少女は決めポーズを崩すと、ちょっと泣きそうな表情で床に置いていた鞄を再び持った。そして、俺の方に一直線に向かって歩いてくる。やべ、とりあえず参考書でも見ておこう。
だが、そんなことをする必要は無かったようだ。少女は俺の隣の空席に鞄を下ろして座る。そして、俯きながら小声でブツブツ何かを言い始める。
いったい何を言っているのだろうか。右耳を澄ませてみよう。
「我は時を駆け操り深淵に属する闇の陰謀を阻止する者このような精神攻撃は効かぬいや効いてはならない効いていない……」
聞いてはいけないものを聞いてしまった気がする。俺は右方から聞こえる声を意識の外にシャットアウトして、再び参考書に目を落とした。
と、後ろから背中をつつかれる。
「ねえ、慧」
「なんだ?」
「あの子誰?」
ガタン‼ と勢い良く隣で少女が立つ。五十嵐の声、聞こえていたのかよ。耳聡いなオイ。
そして、五十嵐の方を向くと、早速高笑いを始めた。
おいおい、五十嵐が『う、うわぁ……』みたいな表情でドン引きしてるぞ。
「ハハハ我の名を問う者よ、我が名はヴァイオレント・ウォーターレスシャロウなり!」
五十嵐が『え……』と困った顔でこちらを見る。
はぁ……補足してやるか。
「……って言ってる中二病患者だ」
「違う!」
え⁉ 違うの⁉