『三人寄れば文殊の知恵』
特別に頭の良い者でなくても三人集まって相談すれば何か良い知恵が浮かぶものだ。
……特別に頭が良いわけではない者が三人集まって相談しても、なんにも起こらないんですが。
むしろそのうちの一人が足を引っ張ってくるんですけど!
俺は目の前の光景に目を向ける。
「えーっと、『るーと』って何ですか?」
「……助けてくれ、慧」
とうとうもっちーが音を上げて俺に助けを求めてきた。
☆★☆★☆
今は放課後、俺たちは学校の図書館にいる。
この高校の図書館は意外と広く、自習スペースもある。
しかも、本棚がある場所とは壁で区切られているので、大声を出さなければ話してもオッケー。理想的な自習スペースだった。
俺たちは早速放課後に席を確保し、そこで勉強を始めたのだが、始めてからようやく、俺たちはこのメンツの致命的な欠点に気づいた。
その欠点とは――
『五十嵐は、致命的なまでに数学ができない』ことだった。
何せ、ルートとは何なのか、さらに方程式や関数も全く理解していなかった。学力的には、小学校を卒業したての中学一年生と等しい。
つまりもっちーは、五十嵐に数学を教えようとしたら、そもそもルートすら理解していなかった、というこの状況にお手上げというわけだ。
だったら何故さっきのテストで十五点は取れていたんだよ。逆に何が取れていたのか気になる。
そもそも五十嵐は『神に知識をインプットされた』って以前言っていたが、それは本当なのか? 目の前の様子を見る限りだと、数学に関しては完全に漏れているんだが。
そんな思考を脇に置いといて、俺は左隣で円卓に向かって座っている五十嵐を見る。
「お前、四則計算はできるよな?」
「当たり前でしょ。あんまりわたしを舐めないで」
「いや、既にお前の学力は舐められるどころのレベルじゃねえよ」
「……そうなの?」
「ああ。正負の数は分かるか?」
「……なんとか」
「方程式は?」
「う、うーん……微妙?」
「そこからなのかい!」
俺の右隣に座っているもっちーがツッコんでくる。
いや、俺も正直ここまでとは思っていなかったんだが。
「……はぁ。五十嵐」
「どうしたの?」
五十嵐は可愛らしく首を傾げてくる。
ヤバいと一番自覚していないのは、大抵自分自身だ。
「お前、このままじゃ留年になるかもしれない」
「……え」
俺の一言を受けて、五十嵐はしばし放心する。
そして、数秒後に再起動すると、
「う、噓でしょ……?」
「本当だ」
俺は力強く頷いてやった。五十嵐はちょっと涙目になって、もっちーの方を見る。
「……ありえるな」
もっちーも、少し考えると俺の言葉を肯定した。
俺たちの言葉を受けて、五十嵐はようやく自分が相当ヤバい状況にあることを理解したようだった。
「ふえぇ……どうしよう……」