五時間目の終了のチャイムが鳴り、授業を終えて丹羽先生が退出すると、俺の隣の空席にもっちーが腰掛けた。
俺たち二人を見て、ニヤニヤすると、俺たちにしか聞こえないような小声で話しかけてくる。
「やっぱり許嫁だったんだな」
「違う!」
実際そうじゃないし! 殺されかけたと殺しかけたの関係だし!
「でもさっき聞いたとき思いっきり吹き出していたよな?」
「あれは言い方のせいだ! 誰だってあんな質問されたら吹き出すに決まってるだろ!」
「慧に限って言えば、あの反応は『はい』と同義だろ?」
「違います」
「じゃあ聞いてみよう。五十嵐さん、君は慧と許嫁の関係なのか?」
もっちーと俺は後ろの五十嵐の方を見ると、
「ええええっと、ちちち違うよ~?」
突然話も振られてテンパり、ものすごく動揺していた。動揺しすぎて目が二十五メートル往復するレベルで泳いでいる。
それ、『はい』って言っているようなものじゃねぇか……。
「やっぱりそうだったんだな。二人ともなんかやけに一緒にいると思ったら、こういうことだったのか」
「「違う!」」
「二人とも息ぴったりだし、反応も分かりやすいなぁ」
「はぁ? それは五十嵐が分かりやすいだけだろ!」
「もとはと言えば慧が吹き出すのが悪いよ」
「……五十嵐さん、いつから慧のことを名前で呼び始めたんだ?」
「「あ」」
俺たちが否定しようとするたびに、自分で墓穴を掘っているんだが。
やはりこれはもっちーの誘導尋問だな⁉ そうだろ⁉
「さあ、まだ言い訳をするか、二人とも?」
もっちーは自分の推測が確信に変わったようだ。
まるで、犯人が墓穴を掘って証拠を易々と押さえた警察のように、もっちーは勝ち誇った顔で俺たちに聞いてくる。
くっそー! ウザいけど自爆しまくったからこれ以上言い訳できねー!
もういいや! バレたものは仕方がない。もっちーを信用するしかない。
「あーそうだよ。俺と五十嵐は許嫁の関係だ」
「慧⁉」
「遂に認めたか……。本当なのかい、五十嵐さん」
「……うん」
そうかー、ともっちーは納得顔で、そして若干どこか残念そうな顔で、うんうんと頷いた。
「良かったな、慧。五十嵐が将来の奥さんになってくれるんだぞ」
「う、うるせー」
……まあ、五十嵐の容姿がいいのは事実だ。クラスの中でもいい方の部類に入る。
だけど、コイツの正体を知っている身としては、どうしても気持ち的に一歩引いてしまうんだよなー。
そんな俺の心の内ももっちーは知るはずもなく。
「五十嵐さんも、お幸せに」
「う、うん。ありがとう」
五十嵐に声をかけた後、自分の席に戻っていった。
許嫁……やはり、複雑な気分になるな……。