俺は弁当箱を片付けて、もっちーを別れ、鞄を持って教室を後にする。
昇降口を出ると、冷たい強風が俺の体に吹き付け、嫌でも冬の始まりを感じさせる。
「さびぃー……」
ポケットに手を突っ込んで校門の方に進んでいくと、その脇に人が二人立っているのが俺の目に映った。
それとほぼ同時に、その二人も俺の存在に気づいていたらしく、大きく手を振ってきた。
「おーい、け~い!」
「……姉ちゃん。五十嵐」
校門脇に立っていたのは姉ちゃんと五十嵐だった。でも、確か姉ちゃんと五十嵐って数分前に帰ったんじゃなかったっけ?
俺は五十嵐の方へと目を移して聞く。
「待っていたのか?」
「うん」
「そうか……」
こんな寒い中、わざわざ待ってくれたのか。
「よ~し、それじゃあ帰ろう!」
「はいっ!」
俺たち三人は家へ向かっていく。五十嵐と姉ちゃんが先行して、俺がその一歩半後ろをついていく。道で広がると邪魔だし、何より周りの奴らに俺と五十嵐は関係ないことを印象付けようとしていた。本当に効果があるのかは疑問だが。
不意に姉ちゃんがスピードを落として俺の横に並ぶ。
「そういえば慧、昼休みにひかりちゃんを助けようとしたんだって~?」
『ひかりちゃん』と呼んでいるあたり、生徒会長としてではなく個人として話をしているのだろう。辺りを見回してみると、確かに生徒は誰もいない。
「……んまあ、そーだよ」
「流石許嫁~」
「バカッ! ね、姉ちゃん声大きいって!」
「大丈夫よ~誰も聞いていないから~」
確かに周りには誰もいないが……。姉ちゃんといるといっつもヒヤヒヤさせられるな。
「ま、結局意味なかったけどな」
俺が昼休みに五十嵐を連れ出しても、その後も五十嵐の状況は変わらなかった。もし俺が行動しなかったとしても、放課後には姉ちゃんが五十嵐を助けていただろう。
それに、俺が行動したことで、わざわざ危険な橋を渡ることになってしまった。俺にとっても、そして五十嵐にとっても、だ。昼飯も半分しか食べられなかったし。デメリットだらけだ。
あ、あれー? もしかして、俺の行動、要らなかったんじゃね?
まさかの俺いらなかった説浮上&濃厚に固まっていると、五十嵐がくるりと振り向いて俺の目を見る。
「意味ないことはないよ、慧。連れ出してくれた時、わたし嬉しかった」
「お、おう」
思わぬ言葉にドキッとしてしまう。なんと反応すればいいのやら……。
ただ、昼の俺の行動は完全に無駄なものではなかった、と俺は少しだが思い直すことができた。
「……わたし、どこにも入らず、帰宅部にすることに決めました」
「……そうか」
「私と同じね!」
姉ちゃんは運動神経がめちゃくちゃ良いから、どこの部活からも引っ張りだこだった。それゆえ、どこの部活にも入らずに中立を保っている。五十嵐も、それと同じなのだろう。
しかしながら、そんな俺の予想は一秒後の五十嵐の発言で否定された。
「帰宅部になれば、慧と一緒に帰れますから」
「……え」
そう言って五十嵐は微笑むと、前を向いて歩き始める。
不覚にも、俺は再び心を揺さぶられるのであった。