体力テスト、というものがある。
自分の体がどのくらいの運動技能を有するかを分析するためのテストだ。
体力テストには様々な種目があるが、たいてい一日のうちに全ての種目を測定する。
そして今日。俺たちはこのテストをやっていた。
他の学校では五月や六月、あるいは九月などにやっているらしいが、この高校では毎年十一月という変な時期にやるのが通例であるようだ。
暑さや雨は回避できる分、動いていないと結構寒いのが難点だが。
基本的に体力テストでは二人一組での行動が義務付けられている。二人一組で組んだ方が、計測する時に何かと都合がいいから、らしい。ボッチには辛い仕打ちだ。もちろん、俺が組んでいるのはもっちー。五十嵐と組むわけがない。
今、俺はちょうどハンドボール投げの記録が終わり、次の持久走の開始時間まで、校庭の端の縁石に腰を下ろして待っているところだ。
うううう……変にかいた汗が北風に晒されてさぶい……。ジャージを着てくればよかった……。
ブルブルと震えている俺を他所に、ジャージを着て暖かそうにしているもっちーはポツリと呟く。
「……やっぱスゲえなあれ」
「……そうだな」
周りを見渡すと、ほとんどの生徒が同じ方向に顔を向けていた。
持久走をしている連中も、チラチラと視線を向ける有様だ。
俺もその注目の的となっている人物へと目を向ける。
「えい」
可愛らしい声とは裏腹に、綺麗な大きい放物線軌道を描いて飛んでいくハンドボール。
ダムッ! と着地した地点は、二十五メートルを表す白線のすぐ横。
それを見て、顔を若干引きつらせながら、ボランティアをしている運動部の生徒が大声を張り上げる。
「に、二十五メートル!」
「やったー!」
そして、投球地点を表す円の内部で喜びの声をあげてピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねているのは、五十嵐ひかり。
わ~スゴいね~と周りの女子から次々と祝福されて、あははーと笑っている。
……俺の記憶が正しければ、高校一年生男子のハンドボール投げの平均は二十四メートル、女子は十四メートルだ。そして、俺の記録は二十メートル。
「……アイツ、化け物だろ」
「ホントだな。あの姿からは想像できないぞ」
身体的スペックが高いのは、きっと元が天使だからに違いない。
俺はもっちーに確かめる。
「これまでもスゴい記録を連発していたよな?」
「うん。五十メートル走もぶっちぎっていたし」
さっき見ていたが、あれはスゴかった。
なにせ、陸上部の短距離の女子のエースを易々と引き離していたんだぞ?
「ま、これで部活の問題は解決だね」
「ああ。自ずとスカウトが来るだろうからな」
この学校の運動部の新入部員の獲得競争は激しい。大会に出て実績を作れば、本人たちにとってはスポーツ推薦などの材料になるし、部活にとっては予算の割り当てが増えるからな。皆必死なのだ。
こんなに身体能力の高さを見せびらかしていたら、争奪戦になるに違いない。
さて、もうそろそろ持久走が始まるようだから行かなければ。
俺ともっちーは腰を上げてスタートラインの方へ向かった。