翌日。俺は昨日と同じようにこっそり五十嵐と一緒に登校した。いや、登校せざるを得なかった。一応、こっそり時間をずらそうとしたのだが、五十嵐が『一緒に行かないの?』と言うので、ついつい押し切られてしまった。本当に押しに弱いな俺。
今日も『リア充爆発しろ……』とか『カップルめ……』とか言いたげな視線を向けられただけで、なんとか知り合いにはバレていなさそうだった。
この場合は友人に遭遇しない俺の運によるものなのか、それとも周りのピーポーが俺たちのことを噂しないだけなのか、はたまた別の要因によるものなのか……。いずれにせよ、噂になっていないことはとてもありがたかった。
ちなみに、今日の帰りは別々という約束になっている。俺には、帰る途中にスーパーに行って冷蔵庫へ補充する食材を買いに行くという任務があるからな。
そしてその学校も何とか乗り切ってあっという間に放課後に突入した。
チャイムの直後、いつものようにもっちーと話しながらちゃっちゃと帰ろうと準備をしていると、その隣から声を掛けられる。
「二人とも、ちょっといいかな?」
「五十嵐さんか、どうしたの?」
そこに立っていたのは五十嵐。右手にはスクールバッグを持っている。
「ちょっと時間を貰ってもいいかな?」
「もちろん。慧は大丈夫か?」
「……ああ」
「よかった。ありがとう」
そう言いながら五十嵐は、俺の席の右横の空席に座る。
転校二日目。まだ五十嵐の周辺には十分に人が寄り付く期間内のはずだ。そんな時期にもう女子たちからの興味は失われたのか?
そう思って、俺はぐるりと辺りを見渡すと、クラスの女子がこっちを見てひそひそと話していた。そりゃあそうなるよな、転校して二日目に男子二人に接近するなんて。なんか女子怖い。
そんな雰囲気を無視しているのか、あるいは鈍感すぎて全く気付いていないだけなのか、五十嵐は天使の笑みで俺たちに言葉を続ける。
「実は今日、二人に相談したいことがあるんだ」
「おお! 何でも聞いてくれ!」
もっちーはものすごく乗り気で、胸をドンと叩いた。
俺としては学校ではこれ以上関わらないで欲しい所存であるのだが。というか相談事は家に帰った後の俺では解決できないようなものなのか?
「えーっと、実はわたし、もうすぐ部活動に入ろうと思っているんだ。それで、この学校でオススメの部活があったら教えて欲しいの」
「そうか、まだ部活に入っていなかったのか」
部活に入りたいのか。なるほど、だったら帰宅部である俺では、その相談には不適格なわけだ。
もっちーはふんふん、とどこか偉そうに頷くと、いくつかの質問を投げかける。
「五十嵐さんは運動が得意な方かな?」
「えーっと、まあそこそこは」
「なら、特に興味のあるスポーツとかは?」
「うーん……ないかな」
「ならちょっと難しいな。もうすぐ二学期も終わっちゃうし、今の時期、仮入部も基本どこもやっていないだろうからなぁ……」
もっちーは少し悩むと、鞄から一枚の紙を取り出し、五十嵐に差し出す。
「これがこの学校にある部活の一覧表だ。上の太線で囲まれているのが運動部だから、それで興味があるものにとりあえず見学に行ってみればいいと思うよ。分からないものがあったらどんどんオレに聞いてくれ」
もっちーよ、そんな紙何故今頃持っているんだ……。一学期に配られたその紙、俺はもうとっくのとうに古紙回収に出してしまったぞ。用意が良すぎる!
五十嵐はそれを受け取ると、サッと目を通して、プリントを折り畳んだ。
「うん。ありがとう、望月君」
「おう、いいってことよ!」
じゃあね、とそのまま五十嵐は帰っていった。
そして、笑顔で見送ったもっちーはポツリと言う。
「……オレにラブコメが来たかもしれない」