この神はふざけているのか? メールは長いし軽い文体だし顔文字使っているし言っていること意味不明だし。この文面から察するに、神は五十嵐が、俺を恋愛対象としてこの家に居候することを見越しているようだった。いや、きっと神がコイツにそうするように指示したに違いない。
というかこの神、サラッと俺と五十嵐がくっついて欲しいって言ってるよな⁉
俺がどこからツッコんでいいか分からずに無言で固まっていると、隣で五十嵐が少し顔を赤らめながら言った。
「いいお嫁さんになれるよう、頑張るね……?」
「頑張らんでいいわ!」
てか五十嵐もなんで乗り気なの⁉
そこで、俺は一つの可能性に思い当たる。ま、まさか……。
「もしかして、これがさっき言っていた『神からの不可解な命令』ってやつか⁉」
「うん。わたしがこの世界へ追い出される前に、神から『雨宮慧とくっつけ』って言われた」
「はあぁ⁉」
全く意味が分からない! 何故五十嵐とくっつかなきゃならんのだ! というか『許嫁』って五十嵐の作り出した設定ではなくて、神の指令だったのかよ! そんな神のシナリオに従ってたまるかよ!
まあ、そりゃね、五十嵐は外見だけ見れば可愛い方だし出るべきところは出ているし、引っ込みべきところは引っ込んでいるし……。それに、今は俺を殺そうとしているわけではないし、そんなに性格が悪いわけではないし。
……あれ、こう考えてみれば五十嵐って恋愛対象としては結構いい奴じゃね?
いやいや、騙されるな、しっかりしろ、俺! あの五十嵐だぞ⁉ つい三日前の朝、俺を殺しに来た殺戮の天使セラフィリだぞ⁉ 殺戮をしているかどうか知らないけどそんな奴とくっついてたまるかー!
「わたしじゃ、ダメ……?」
「ぐっ……」
俺が頭の中の天使と悪魔に気持ちが綱引きされているのを見越したのか、五十嵐は俺を上目遣いで見上げながら首を傾げてきた。
何なのコイツ⁉ 俺の気持ちを誘惑する悪魔か⁉ もうコイツ、いっそのこと天使じゃなくて悪魔と呼んでやろうか⁉
……落ち着け俺。こういう時こそ、冷静になるべきだ。ステイクールだ。
「ま、まあこのことはまた後で話そう。そんな急に言われても思考の整理ができない」
「……そうだね」
はぁ……。なんとか先延ばしにできた……。だけど先延ばしは先延ばし。結局問題は何も解決できていない。
俺と敵対していた、という負の面。そして、神のシナリオに従ってたまるか、という反骨精神。それと、結構可愛いじゃないか、と正直惹かれてしまう部分がぶつかり合っているのだ。それで、俺は結局のところ、可愛いという点を少しでも認めてしまっているせいで、先延ばしにするのが精いっぱいだった。
……もぉどーしよう!
俺の頭は悩み事でますますこんがらがる一方だった。