「はい、これ仕事」
ドン! とデスクの上に積まれたのは書類のビル。
その厚さは尋常ではない。私の視界が遮られてしまうほどだ。
「え~これやるの~」
「もちろんです。完全下校時刻までに全て片付けて下さい」
副会長は眼鏡を指で上げながら、さも当然かのように言った。
私はこの不遇な労働環境の改善を要求するためにストライキを決行する。
「面倒くさい~」
「早くやれ」
「痛ったぁ!」
……机に突っ伏すストライキは、残念ながら副会長の暴力により中止になった。
「生徒会長には団体行動権なんてものはありません」
「そんなぁ~」
それにしても、慧と同じようにいつの間にか副会長は私を丸めたノートで叩くようになったなぁ。
昔は物静かで頭が良くて優秀な部下だったんだけどね……。
「何か言いましたか?」
「いいえ何でもありません」
最近では私の心まで読めるようになってきている気がする。
こういう時、なんとか楽をしようとするのが人間という生物の性である。
「延長届出した?」
「もちろんです」
副会長が生徒会活動延長届を掲げる。顧問の印もしっかり押してある。
「今日の追試は?」
「ありません」
必死になって次々と考えだした抜け穴は、全て副会長によって塞がれていた。
結局、真面目に仕事をするしかないのね……。
私は仕方なく書類に目を通したり、ハンコを押したりと仕事を開始する。
しかし、最初の方はまだ良かったものの、時間が経つにつれてだんだん瞼が重くなってきた。ハンコを押す手も、新しく書類を引っ張り出す動作も遅くなっている。
生徒会室は外とは違って暖房が効いていてポカポカ。しかも休日であればいつもならお昼寝をしているという時間帯。
これは寝ろと言っているようなもんでしょ! というわけでおやすみ……。
「起きろ」
スパアアン!
「痛ったああ!」
寝ようとしてガクっと頭が下がったその瞬間、副会長がノートで私の頭をぶっ叩いた。放課後の二人きりの生徒会室に爽快な音が響く。
どうやら副会長は私に昼寝をさせないつもりらしい。窓際で本を読んでいるフリをして、後ろ手にノートを隠し持って私の方をチラチラ見ているのがその証拠だ。
「副会長もちょっと手伝ってよ~」
「私にできることはやりましたよ? あとは会長にしかできない仕事しか残っていません」
「確かにそうだけどさ~」
私の手元に残っている書類は、全て生徒会長の決裁が絡んでいるものしかない。それ以外は副会長がやってくれたのだろう。
多分、副会長が私のフリをして決裁をしてもバレないとは思う。けれど、副会長はそういうことは許さない真面目ちゃんなのだ。だから副会長の手を借りることはできないだろう。
では何故ここに副会長がいるのか。十割仕事をしない私の監視の為だろう。
私はほっぺたを抓って必死に睡魔に抗いながら仕事を進める。一瞬でも気を抜くと、即座に寝落ちしてしまいそう。
頭をガックンガックンさせながら働いていると、いつしか窓の外が暗くなり、運動部の元気な声も聞こえなくなった。
机上の書類も量が減り、処理済みの書類が積み上がっていく。
落ちてくる瞼を無理矢理上げて、書類にハンコを押し、次の一枚を取ろうと手を伸ばす。だが、私の手は空を切った。
「終わったみたいですね」
パタンと本を閉じて、副会長が立ち上がる。そして机に近づくと、処理済みの書類の山を片付けていく。
仕事、やっと、終わったのね……。
「お疲れ様でした、会長。もう帰っても大丈夫……」
「おやすみ……」
スパアン!
「痛ったぁ!」
「早く帰りなさい」