チャイムが鳴り、学校は昼休みの時間に突入する。
俺ともっちーは早速机をくっつけてお弁当を広げた。
「慧、お前今日も手作りなんだな」
「まあ、な。そっちはいつものコンビニ弁当か?」
「いーや、今日は母ちゃんに作ってもらったぜー」
もっちーが袋から取り出した弁当は、確かに手作りのものだった。
「それにしても、冷凍食品が入っていない、女子力高い慧の完全オリジナル弁当はスゴイな~、羨ましいぜ」
「そうか? これを作るのは結構大変なんだぞ?」
毎朝五時に起きて三人分……いや、昨日からは四人分の弁当を作らんといけないからな。それに朝ご飯も追加で作らねばならない。いくら好きでやっているとはいえ、しんどいものがある。もっちー、君にはこの大変さは分かるまい。
「んじゃ、いただきまーす」
「いただきます」
俺たちは早速弁当を食べ始める。
他愛もない話をしていると、不意にもっちーは五十嵐のことについて話題を振ってきた。
「やっぱり、転校生っていうのはいつの時代も人気だよな」
「どうした、急にそんなことを言い出して」
「ほら、お前の後ろの席の五十嵐さん、見てみろよ」
後ろを振り返ると、そこには女子の壁。なんか騒がしいなと思ったらクラスの大半の女子が五十嵐の席を囲んで騒いでいたのか。その弊害で、若干俺のテリトリーが狭くなっている。
集まった女子たちは、もちろんその中心である五十嵐のことを話題にしている。
「五十嵐さんの弁当、手作りなんだ~」
「美味しそう~」
「どうもありがとう」
そりゃ俺が作ったからな。味にも結構自信があるぞ。
「やっぱ女子は皆弁当だよな~。それに比べてこの男子の弁当率の低さ……」
「みんな学食に行っちゃうもんな」
今この教室に残っている男子は俺ら二人くらいなものだ。もっちーは全く嘆かわしい、と首を横に振る。
俺は片方の耳でもっちーの話を聞きながら、もう一方で五十嵐の方に耳を澄ませる。
「これってもしかして五十嵐さんの手作り?」
「ううん、違うよ」
「じゃあお母さん?」
「ううん、これはけい――」
ダメだ! そこで俺の名前を出してはならない!
「学食って地味にコンビニより高いからな~。実は買い弁の方が安かったりするんだよな。特に」
「K円コンビニの弁当は味もボリュームも一級品なんだよな!」
咄嗟に俺は大声でノリがいいように装って声を大きくした。
お願いだから五十嵐よ、俺のこの言葉の意味を察してくれ!
「けい?」
「……K円コンビニのお弁当を参考にお父さんが作ってくれたんだ~」
「へぇ~」
「いいお父さんじゃん!」
「えへへ、ありがとう」
ほっ。超危なかった~。もう少し遅れていればものすごくヤバいことになっていた。まさに危機一髪!
俺は最後にチラリと女子の間から見える五十嵐にヘマをするな、とアイコンタクト。
それが通じたかどうかまでは確認できなかったが、通じていることを祈って、俺はまた何事も無かったかのようにもっちーと昼食を食べるのだった。