時間は経ち、夜になった。
姉ちゃんも、そしてどこかに行っていた五十嵐も夕食直前に大量の荷物を持って戻って来て、食卓を囲んで俺の作った夕食を食べ始める。
ちなみに、母さんは今日も帰りが遅くなるので夕食はいらないとのことだ。いつもお疲れ様です。頭が上がらない。
「なあ五十嵐」
「ん? どうしたの?」
『私は堕天使』Tシャツを着ている天使に向かって俺は尋ねる。
「結局できたのか?」
「もちろん!」
五十嵐はほら、と書類の束をこちらに突き出す。
受け取って見てみると、それは複数枚にわたる五十嵐に関する重要な書類だった。戸籍、住民票、入学書類……見た感じ必要そうな書類は全部揃っている感じだ。これなら高校に入学できるだろう。
ご丁寧にも、どうやったのかは知らないが、ハンコまでちゃんと押されているし。これも天使の力によるものなのだろうか。
俺の隣に座っている姉ちゃんもどれどれ~、と俺の手元を覗き込んでくる。
「ひかりちゃん、もしかして学校に行きたいの?」
姉ちゃんは書類から察したようだ。
「はい!」
「そうなの~。あ、慧と同学年か~。じゃあ、学校に入ったら慧のこと宜しくね? 同じクラスになるように校長に圧力をかけてみるから」
「ありがとうございます!」
「おい、姉ちゃん!」
五十嵐と俺が一緒のクラスになる、いや、そもそも同じ学校になるとは一言も言ってないぞ!
しかも、さらっと姉ちゃん『校長に圧力かけてみる』って言ったよな? いくら生徒会長だからといって、そこまでやれるもんなの⁉ もしかして姉ちゃん、何か校長先生の弱みを握っているとか……? 怖い怖い怖い‼
「あー、でもまだこれだけじゃ入学できないんじゃない?」
「何か足りませんでしたか?」
「ほら、制服とか上履きとか体操服とか、そっちはまだ揃っていないでしょ?」
「揃えましたよ?」
「「え?」」
五十嵐は横を向くと、ソファーの上に置いてある袋を指さす。
横倒しになっているその袋の中には、俺の通っている高校の女子の制服の青や、体操服の白、ジャージの紺が見え隠れしていた。
「いつの間に……」
今日帰りが遅かったのは、書類もそうだが、これを作りに行っていたせいだったのか。もちろん、制服や体操服が頼んでから数時間でできるはずがない。ここにも天使の力でも使ったのだろう。
「じゃあ明日には学校に行けるね!」
「はい!」
「じゃあそれを持って明日の朝、慧と一緒に学校に行ってね」
「分かりました!」
「じゃ、そういうわけで職員室まで連れて行ってあげてね、慧」
「ああ……ってええええ⁉」
なんか話が勝手に進んでいるし! 何故俺が五十嵐を連れて行かねばならんのだ⁉
「姉ちゃんが連れて行けよ!」
「え~私明日早いし~。だから宜しく頼むわよ、慧」
「よろしくお願いします、慧君」
こうも二人から言われたら、流石に俺も押し黙るしかない。ここで意地を張って反抗しても無駄な気がするし、そもそも反抗する気力が湧かない。
誠に不本意ながら、明日俺は五十嵐と学校に行く羽目になった。