三月も中旬になり、そろそろ年度末が近づいてきた。ほとんどの科目で授業が終わり、空いた時間は自習時間になったり授業に関連する映画を見たり、先生が好きなように時間を使っていた。
そもそも、この時期は通常授業自体が少ない。そのため、必然的に空き時間が生じてしまうが、俺たちの学年はその時間を使ってレクリエーションをすることを計画していた。
そして開催されたのが、学級委員会主催の『球技大会』だ。
本来なら午前授業でLHRやら授業やらが行われる予定だったのだが、先生などの協力によって授業時間をずらしてもらい、空いた時間を丸々球技大会に充てたのだ。
今日はその球技大会の日だ。俺たちは朝から体育館に集まっていた。
『えー、それでは、球技大会を始めます!』
生徒が整列すると、前に立った学級委員の一人が司会進行を始める。
今回の球技大会の競技はバレーボールだ。この日のために、マラソン大会後の体育は自由時間だったにもかかわらず、すべてバレーボールの練習に費やしてきた。きっと、他のクラスも同じだろう。
ゲームは男女別クラス対抗のトーナメント戦だ。学年には八クラスあるので、一回戦で上位四チーム、二回戦で上位二チーム、三回戦で優勝チームが決まる。そして、一回戦のトーナメントの組み合わせは、事前に学級委員会によるくじ引きで決められていた。
説明が終わると、準備体操をする。その後すぐに、早速一回戦の第一試合と第二試合が始まった。
ちなみに、俺たちC組は第三試合でD組と対戦することになっていた。そのため、ひとまずステージ上で待機する。
「ついにワタシに活躍の場がやってきたデスね!」
「頼りにしてるよ〜サーシャちゃん!」
「任せろデス!」
必然的に、バレー部の人にとっては有利だ。このクラスの女子にバレー部部員はサーシャただ一人。試合は彼女を軸に回していくことになる。
しばらくすると、一回戦の決着がついた。入れ替わりで、俺たちは下に降りる。
今回俺たちがやるのは六人制バレーボールだ。しかし、一クラスあたりの人数は男女それぞれ二十人弱。全員が一斉にコートに入ってプレーすることはできないため、一人が出たら一人入る、というローテーションを事前に組んでいた。
ちなみに、俺は最初コートの外で待機することになっていた。まずは邪魔にならないところでゲームを見守る。
また、ゲームの勝敗の決め方も普通のバレーボールとは少し異なっている。今回は時間の兼ね合いで一セットで勝負が決まることになっていた。勝敗が決まる点数は三十点で、デュースはない。要するに、先に三十点を取った方が勝ちだ。
ここで、俺の番が回ってきたのでコートに入る。右後ろのポジションなので、いきなりサーブを打つことになった。
俺はボールを受け取ると、ふぅーと息を吐く。そして、ボールを真上に投げると、対角線上にある相手コートの角を目がけて、練習どおりにボールを叩き込んだ。
バシーン! と凄まじい音がして、ボールが弾丸のように飛んでいく。そして、ネットの上をギリギリで通過すると、俺が狙ったポイントに落下していった。
相手チームは反応できず、ボールがコートの中でバウンドする。早速一点を取った。
「ほまれさん、その調子です!」
隣にいる越智が声をかけてくる。
「頑張れ〜!」
「天野、やっちゃえ!」
後ろから飯山と檜山の声も聞こえる。
よし、この調子でバンバン得点を取ってやるぞ! 俺はそう決意して、再びサーブを打つ。
結局、それから五回連続でサーブを打つことになり、五回目で三十点に到達したので、俺たちの勝利となった。
続く準決勝ではF組と当たるも、相手のミスも重なり、俺たちは早々に三十点を取って決勝に進出する。
決勝戦の相手はE組だった。
ここまできたら優勝するしかない! 今まで相手をかなり圧倒して勝ち進んでいきたことから、俺たちの間にはかなり楽観的なムードが漂っていた。
しかし、それは試合が始まった途端、一瞬でひっくり返った。
「いくよー!」
相手のサーバーがそう宣言した途端、恐ろしいスピードのボールがこちらに飛んできた。
右後ろのポジションに入っていた俺は手を伸ばして掬おうとする。しかし、ボールは俺を嘲笑うかのように、その直前でふわりと軌道を変えた。
「嘘だろ……!」
そして、伸ばした手も虚しくボールはコートの中でバウンドする。相手チームに一ポイント入る。
勢いもさながら、技ありの一発に、俺たちはなすすべもなかった。
こんな一発を打ったのは誰だ⁉︎ E組にこんなに運動神経のいい奴がいるなんて……。
俺は目を凝らして向こう側を見て、サーブを打った人を探す。
「やったー!」
あれは……室内遊戯部部長の山内⁉︎ スゴいね、と仲間に褒められて笑顔を浮かべている。
「スゴいサーブデスね……バレー部に欲しいデス」
そういえば、山内はめちゃくちゃ力が強いんだよな……。以前、体重が重い俺を平気で引きずっていったこともあった。その腕力がこの恐ろしいサーブを作り出しているのだろう。
俺たちの間に流れていた楽観的ムードが一転、悲観的なムードになる。こちらが得点を取れるまで、あのサーブは継続する。俺たちはどうにかして一点を返す必要があった。
「いくよー!」
俺は目を凝らす。バシーン! と快音を響かせ、ボールはまたこちらに飛んできた。俺は中腰でどこへでも移動できるように構える。
すると、俺の予想落下地点よりもかなり前でボールが急に曲がった。そして、床へ急降下する。
このままではまたボールが取れない! そう判断した俺は、瞬時に構えを解いて、思いっきり滑って足を突き出した。
「とりゃっ!」
バレーボールは主に手や腕でボールを受け止めたり、放ったりする。しかし、ルール上は全身でボールを跳ね返すことが可能だ。
だから、こうしてボールをキックしても何の問題もない!
「マイボー!」
俺に蹴り上げられたボールを、俺の前のポジションにいる檜山が受け止め、トスをあげる。そして攻撃。それがうまく相手のコートに入り、俺たちはなんとか一点を返せた。
「よしっ!」
これで反撃の嚆矢は放たれた。なぜなら、サーブ権がこちらに回ってきたことでローテーションが行われ、その結果入ってきたのが……。
「やるデスよ!」
C組の大エース、サーシャだからだ。
その後、E組と激しい戦いを繰り広げる。双方ともミスが少ないので、打ち合い合戦になることが多かった。
途中で、こちらがレシーブに失敗し、ボールがあらぬ方向へ飛んでいくことがあった。その時、偶然近くにいた俺は走って、ダイビングしながらなんとかトスを上げて危機を脱した。
このような危ない場面もありながら、両チーム得点を積み重ねていく。そして、双方とも二十九点で迎えたマッチポイント。
「いくよー!」
サーブを打つのは山内だった。外野に出た俺はドキドキしながら見守る。そして、サーブが打たれた。
弾丸のような速さでボールが飛んでくる。しかし、山内は疲れていたのか、そのボールはネットに引っかかってしまった。
「あ」
ボールが相手コートの中に落ちる。サーブをミスした場合、やり直しはなく、相手に点数が入るルールなので、俺たちに一点が入り、C組は三十点に到達する。
「勝った……のか」
なんだか締まらない形になってしまったが、俺たちC組は女子部門で優勝したのだった。