ツイスターゲームでしばらく遊んだ後、みなとのお腹が鳴ったのを機に、俺たちは昼食にすることにした。
窓の外を見ると雪が降り始めていた。この天気で昼食を外で食べるのは億劫なので、出前を取ることになり、檜山がピザを注文した。
ピザを食べた俺以外のメンバーは、お腹いっぱいになったようだ。
その後、ダイニングから部屋に戻る。
「次はなにする?」
「うーん、そうだなぁ……」
檜山は部屋の中を見回す。そして、本棚に目をつけると、ゴソゴソと漁る。そして、一つのケースを取り出した。
「ゲームでもやるか?」
彼女が取り出したのは、ゲームのケースだった。パッケージの表面には、有名なゲームタイトルが書いてある。
「いいデスね! 日本のゲーム、やるデスよ!」
「いいわね、やりましょう」
みなととサーシャの強い希望により、俺たちはテレビゲームで遊ぶことになった。
檜山が早速ゲーム機にディスクを入れて、テレビに繋ぐ。そして、箱から大量のリモコンを取り出して一人に一つずつ配った。
「こういうテレビゲームで遊ぶのは久しぶりですね」
「そうなの? 確かにいおりちゃんってあんまりゲームやらなさそうな感じがするね〜」
「そうですね。わたしの家にはゲーム機がないので」
「え、ゲーム機ないの?」
「はい。あまり興味がありませんでしたし、欲しいとも思いませんでした」
「かわってるね〜」
大半の子供は、小学生までに何らかのゲーム機を買ってもらっていると思うのだが、越智はその数少ない例外らしい。
「でも、このゲームはやったことがあります。友人の家で何度かやらせてもらいました」
「お、じゃあお手並み拝見だね〜」
俺たちが遊ぶゲームは、複数のプレイヤーが同じステージで乱闘するというものだ。最大八人まで同時プレイ可能なので、六人の俺たちにはちょうどいいゲームだった。俺がみなとの家に泊まった時にもやったゲームだ。
「よーし、早速始めるぞー!」
キャラ選択とステージ選択を終えて、いざ開戦。普段ならせいぜい多くても四人しかいないステージに、今日は六人も集結しているため、かなりステージが狭く見える。
そこからは文字どおりの大乱闘だった。
「あ〜! ふっとんだ〜!」
「ちょ、なお、執拗に攻撃しないでくれデス!」
「へへーん、勝った方が正義なんだよ!」
「……隙ありです!」
「あ、ちょ、あーっ!」
最初に脱落したのは俺だった。一瞬の隙を越智に突かれて、場外に吹っ飛ばされて終わった。本当に一瞬だった。
ちくしょー! このゲームなら何度もやっているはずなのに……。さすがに最下位にはならないだろうと思っていただけに、悔しいなぁ……。
結局、このゲームは最終的にみなとと檜山の一騎打ちになり、みなとが勝利して終わった。
その後も、ステージやキャラを変えて何度も対戦する。しかし、何度やっても俺は一位を取ることができず、中位や下位に甘んじる。胸の中には悔しさが募っていった。
「そういえば、天野って一度も一位取ってないよな」
「ああ、うん……一回くらいは取れると思ったんだけどなぁ」
「意外ね」
「皆強すぎるんだよ! みなととか檜山とか……すぐ俺を突き落としてくるじゃん」
「それはあんたが隙だらけだからでしょうが」
「ぐっ……」
そう言われると言い返せない。すると、ここで飯山がとある提案をする。
「ねぇ、ほまれちゃん、AIを起動した状態でやってみたら?」
「……いいの?」
「ワタシは賛成デス!」
「わたしも、ほまれさんのAIがどれだけ強いのか興味があります」
「いいんじゃね、ハンデってことで」
三人が賛成する中、みなとだけは若干難色を示した。
「それはちょっとやりすぎじゃないかしら? たぶんほまれがすぐに勝ってしまうと思うのだけれど。もしそうするなら、代わりに他のハンデを与えた方がいいと思うわ」
みなとだけはAIの実力を知っているため、俺に有利になりすぎではないか、と指摘する。
「いいじゃん、一回どんなもんか見てみたいし。ハンデを与えるにしても、一度やってみてからでもいいんじゃない?」
「……まあ、皆がそう言うのなら別にいいわよ」
「……じゃあ、AIを起動するね」
俺はAIを起動し、体のコントロールを割り当てる。
「それじゃ、始めるぞー」
そして勝負が始まった。
次の瞬間、『俺』の視線は高速で移動し始める。そして、手は高速でカチカチカチとスティック操作を始めた。
「わ、わっ! やられちゃった〜」
最初に俺の餌食になったのは飯山だった。たまたま近くにいただけの彼女に、数フレーム単位のシビアな入力でしか発動しない大技を一発で成功させ、画面外へ吹っ飛ばしてそのままノックアウトした。
今度はサーシャがこちらに襲いかかってくる。何発か攻撃されるが、素晴らしいスティック捌きですべてブロックする。ほとんどフレームの猶予がないにもかかわらず、すべて成功だ。マジでプロゲーマーになった気分だ。そして、容赦なく大技で吹っ飛ばす。
「やられたデス〜……ほまれ、強すぎデス!」
残るはあと二人、みなとと檜山だ。ちなみに、越智は檜山にさっきやられてしまった。
「みなっちゃん、ここは共同戦線を張ろう」
「了解よ」
すると、二人は連合を組んで『俺』を両側から挟み込む。おいおい、卑怯だぞ! 本来なら一対一対一のはずなのに、これじゃ二対一じゃないか!
「二人とも、わたしたちの仇をとって〜!」
「頑張れデス!」
「たおしてください!」
しかし、外野の三人は完全に連合側だった。しかも、俺は体の操作をAIに任せているため何も言い返せない。実質五対一だった。
だが、ここでやられるようなAIではなかった。
二人が両側から同時に大技を放ってくる。その瞬間、『俺』はジャンプして避けた。すると、大技は互いに当たってダメージを与え、それぞれ後ろへ吹っ飛ぶ。味方どうしの相打ち発生だ。
その隙を逃さず、まずは檜山の方へ近づく。そして、あっという間に距離を詰めると、みなとが追いつく前に場外へと叩き落とした。
そうなればあとはもう簡単。みなとをやっつけてゲームセット。『俺』は鮮やかに優勝したのだった。
「くっそー、ここまで強いとは……」
「やられたわね……これはハンデが必要じゃないかしら」
「そうだな」
檜山はハンデの必要性を痛感したようだった。
「では、どんなハンデにしますか?」
「う〜ん、なにがいいんだろう……」
「ほまれは足で操作するとかどうデス?」
それは汚いからやめた方が……と思わずAIのコントロールを中断して口を出しかける。しかし、それより前に檜山が予想外の言葉を発した。
「いいね、それ! やろうやろう」
そう言って、檜山は部屋の外に出る。三十秒後、戻ってきた彼女の手にはアルコールティッシュの箱があった。
「天野、これで足を拭いて」
「わかりました」
『俺』は檜山の指示に従って自分の両足の指を拭く。檜山はコントローラーを拭くと、俺の足の前に置いた。
「じゃあ、次は足だけで操作してね。手で操作するの禁止」
「わかりました」
『俺』は大人しく檜山の指示に従い、足の指をコントローラーの上に置いた。
当然、コントローラーは手で操作する前提で設計されているため、足の指では操作しづらい。それどころか、一部のボタンを押すのが難しいため、技が制限されてしまう。
「よし、それじゃもう一度勝負だ!」
というわけで、足の指ハンデを課せられた状態で、俺は再戦するのだった。