雪だるまを作った後、俺たちは再びスキーやスノーボードに興じる。最終的に、俺は中級者コースをなんとか滑れる程度にはスキーが上達した。やる前は少し怖かったが、スキーを終える頃には楽しいとさえ感じていた。
午後四時、俺たちはスキー場から撤収する。
俺はスキー場を出ると、皆と一緒に越智の後ろをついていく。てっきり、これから帰途につくためにバス乗り場に向かうのかと思っていたが、違う方向へ向かっている。
「いおり、バスに乗らないデスか?」
「その前に温泉に入る予定です。ここは温泉地としても有名な場所ですから、せっかくなので入っていきましょう」
「なるほど、そうデスね!」
というわけで、俺たちは近くの日帰り入浴ができる温泉施設に入った。
もちろん、俺は皆と一緒に女湯に入ることになる。中身が男だということは、他の人が見てわかるようなものじゃないからだ。
「は〜、早く温泉に入りたいよ〜」
「そうね、結構汗をかいてしまったものね」
俺の後ろでスパスパと服を脱いでいく女子たち。それだけではない、周りにもたくさん女の人はいる。俺はなるべく周囲を見ないようにして服を脱ぐと、急いで大浴場の中に入る。
脱衣所とそこを仕切る扉をガラガラと開けると、中からもわっと湯気が飛び出してきた。脱衣所と同じくらい中も混んでいる。俺は足早に歩いて、端っこの方のシャワーの前に座った。
「ほまれ、ここにいたデスか!」
その直後、ペタペタと床を歩く音が近づいてきて、隣に誰かが座ったかと思うと、サーシャの声が聞こえた。せっかく人がいない遠いところに座ったのに、どうしてこっちに来るんだよ!
しかも、サーシャが来たということは、間違いなく彼女もやってくる。
「ここにいたのね」
俺の予想どおり、サーシャとは反対側の隣の席にみなとが座った。そして、何事もないかのように二人とも体を洗い始める。
おいおいおい、勘弁してくれよ……! 頼むから俺を一人にしてくれ……!
「ほまれ、髪の毛洗ってあげるデスよ」
「え⁉︎ いいよ、悪いって!」
「そんなこと言わずに〜」
俺に構わず、サーシャは素早く俺の後ろに回ると、わしゃわしゃと俺の頭を洗い出した。
サーシャのいい匂いを感じる。しかも、体が密着しているため、俺の背中にサーシャの胸がこれでもかというほど押し付けられていた。サーシャが動くたびにむぎゅむぎゅと柔らかい感覚が背中に伝わる。
「ちょ、サーシャ、自分でやるって……!」
慌てて静止しようとすると、隣からみなとが近づいてくる気配がする。
「ほまれ、体を洗ってあげるわよ」
「みなと、だからいいっt」
「遠慮しないでさあさあ洗うわよ」
俺が何かを言う暇もなく、みなとは俺の横にぴったり近づくと、有無を言わさずタオルで俺の体を洗い始めた。もちろん、背中はサーシャに占拠されているので、現れるのは体の前側だ。
「ちょ、みなと強い強い、ってかどこ触ってんの……!」
胸やお腹などを思いっきりゴシゴシされて、俺は思わず声を出す。一方、サーシャもどさくさに紛れてお尻を触ってきた。
「徹底的に綺麗にしないとデスね〜」
「汚れているから、きちんと洗わないとダメよ」
二人が俺に密着しているため、この空間だけ異様に気温が高い。かといって不用意に動けば二人に当たってしまいそうで思うように体が動かせない。俺は二人にもみくちゃにされ続ける。
そして、俺はついに我慢できなくなった。
「あーもう! 子供じゃないんだから、一人で洗えるってば‼︎」
俺はまず、みなとの腕を掴んだ。みなとは特に抵抗することなく、俺の体からタオルを離してくれた。
次にサーシャ。背中に覆い被さるように密着していたが、俺はまず隙間を作るべく、両手を後ろに回して自分の背中とサーシャの体の間に滑り込ませる。
「ひゃぁっ! あっ、ほ、ほまれ、どこ触ってるデスか……!」
背中で変な声が上がっているが、今はとにかくサーシャを引き離したい一心だった。俺はサーシャの体を手のひらで押すとともに、椅子をずらして自分が前に出る。その際、むぎゅと柔らかい感覚が手全体に感じられた。
サーシャも思ったよりすんなり離れてくれた。背中にかかる重みがなくなった後、俺は振り返ってサーシャの様子を確かめる。
そこには、しりもちをついてこちらを見ているサーシャの姿があった。しかし、その様子がいつもとは少し違う。いつもなら何の躊躇いもなく俺の前で自分の胸を晒していくような奴なのに、今は腕で胸を完全に覆い隠していた。それに、顔を若干赤くしてこちらを見つめている。
「ほまれ……大胆になったデスね……」
俺はようやく、さっき自分の手がサーシャの巨乳を思いっきり掴んでいたことを理解した。どうりでなんだか柔らかすぎるなと思ったんだよ!
でも、この事態を招いた根本的な原因は、サーシャが俺の体を無理やり洗おうとしたからだ。
「もう、そんなんじゃないから! みなともだよ! どさくさに紛れてどこ触ってるの⁉︎」
「……あの時はいっぱい触らせてくれたじゃない」
「あの時ってなんデスか⁉︎ みなとはほまれのおっぱい触ったデスか⁉︎」
「ああもう余計なことを言わないでよ!」
話がややこしくなるじゃないか! サーシャが食いついているし!
「それはそれ、これはこれ! とにかく一人で洗えるから邪魔しないで!」
「ごめんなさい……」
「ほまれ! どう言うことデスか! ワタシにも触らせろデス!」
「触らせるか!」
というかサーシャの場合は、下心というより俺の体の機密技術を目当てに触ろうとしているだろ! だったら余計に触らせられないよ!
「とにかく、俺に構わないでほっといて! わかった⁉︎ 二人とも!」
「……わかったわ」
「……はいデス」
不本意そうな顔をする二人を背に、俺はタオルと洗面器を持って場所を変えるのだった。
※
温泉に入った後、俺たちは最寄りのバス停から、山を下りた市街地にある新幹線の駅前行きのバスに乗った。
終点に着くと、バスからスキー板を持った大量の乗客が下車する。そのほとんどはそのまま新幹線の駅の入り口に吸い込まれていくが、俺たちはそうではない。
「夜行バスが来るのは何時かしら?」
「午前〇時ですね」
行きはスキー場まで直通の夜行バスだったが、帰りはスキー場からではなくこの駅から出る夜行バスに乗ることになっていた。
「あと六時間くらいあるデスね。どうするデス?」
「とりあえず、どこかで時間を潰さないと」
ここは地方都市ではあるが新幹線が通るほどの街だ。娯楽施設ならある程度揃っているだろう。それに、今の俺たちのように、夜行バスを待つ人のニーズを満たしてくれる店もあるはずだ。
「では、どこに行きますか?」
だが、俺たちはどこで時間を潰すかあらかじめ決めていなかった。越智が皆に尋ねるが、難しい顔をして黙り込む。六時間近く時間を潰せるいい場所はないものか……?
「それなら、カラオケなんてどうかな?」
すると、飯山がそんなことを言い出した。
確かに、カラオケのフリータイムなら、バスが来るまで時間が来たらその都度延長すればいいし、その間カラオケで時間を潰すことができる。カラオケならば料理を頼めるだろうし、なにより大人数で同時に楽しむことができる!
「いいね、そうしよう!」
「……いいわよ」
「いいデスね!」
「ではそうしますか」
というわけで俺たちはカラオケで時間を潰すことにしたのだった。