結局、俺はみなとに助け出された。木に衝突して雪に埋もれたが、幸いにも俺の体に異常はなかった。マジでアンドロイドの体でよかった……。人間のままだったら間違いなく大怪我をしていただろう。
その後もしばらくスキーで滑った後、皆で一度集まり昼ご飯を食べた。
「いや〜おいしかったね〜」
「そうデスね〜」
「お腹がいっぱいです」
「ほうね」
腹いっぱい食べて満足げな三人、みなとは、そばの売店で買った肉まんを頬張りながらそれに同意している。お腹いっぱいじゃないじゃん。
やはり、食事の直後はスキーやスノーボードのような激しい運動をする気は起きないらしく、スキーやスノーボードの道具をロッカーに預けたまま、俺たちはゲレンデの最下部に集まる。
相変わらず上からはスキーやスノーボードで人がたくさん滑り降りてきている。しかし、今までは気づかなかったが、そうでない人たちもかなりいる。そういう人たちは、下の方で雪だるまやかまくら作り、雪合戦などをしている。
「そうだ、皆で雪だるまを作ろうよ!」
飯山がそう言い出し、俺たちは雪だるまを作ることにした。
「デカいの作るデスよー!」
サーシャはこれでもかというほど雪玉を速く転がしている。その分、雪玉はどんどん大きくなっていった。
「ほまれ、ちょっと押すのを手伝ってくれない?」
「うん、わかった」
みなとに呼ばれて、自分の雪玉を転がしながら向かうと、そこにはすでに俺のより三倍くらい大きな雪玉をみなとが転がしていた。俺は自分の雪玉を壊してみなとのそれの進行方向に撒く。
「「せーの!」」
そして、掛け声とともにゴロゴロと転がし始める。大きくなるにつれてどんどん重くなっていく雪玉。すでに雪玉の直径は七十センチ弱ほどになり、かなりの質量を誇っていた。
それでも、パワーのある俺の前ではこんなのは屁でもない。ゴロゴロと順調に大きくしていく。
俺たちの雪玉が一メートル弱くらいの大きさになった頃、飯山と越智が雪玉を転がしながら向こうからやってきた。あちらの方が俺たちのものよりも若干小さい。
「そろそろ乗せますか」
「そうだね、これ以上大きくしたら乗せるのが大変になるから」
「あれ、サーシャちゃんは?」
辺りを見回すと、かなり上の方で雪玉を転がしているサーシャが見えた。
「おーい!」
手を振りながら大きな声で呼びかけると、それに気づいたようでサーシャが雪玉を転がしながらサーシャがやってくる。しかし、こちら側に下っている斜面を転がしているせいか、転がしているうちに雪玉がサーシャの手から離れて勝手に加速し、暴走する。
「マズいわ、逃げるわよ!」
このままではこちらに雪玉がぶつかってしまうことをいち早く悟ったみなとは、そう言い残してダッシュで逃げ出した。俺たちも雪玉にぶつからないように逃げ出す。
「のげぺ!」
と、次の瞬間俺は雪に足を取られてすっ転んだ。
「ほまれちゃん!」
「ほまれさん!」
「ほまれ!」
俺はなんとか立ち上がって逃げようとする。しかし、雪玉はもうどうやっても避けられないところまで接近していた。迫ってくる雪玉は直径一メートル弱。このままでは雪玉に轢かれるか、後ろにある俺とみなとの雪玉との間に挟まれてしまう!
次の瞬間、俺は覚悟を決めて、迫り来る雪玉に視線を合わせる。そして、今からやることを思わず口走った。
「ビーム出ろ!」
次の瞬間、俺の左目からレーザービームが飛び出した。そして、雪玉に緑の光点が現れる。
しかし、そんな俺の弱っちいレーザービームごときで、雪玉の勢いが止まるどころか、雪玉が蒸発して小さくなることすらなかった。
ゴロゴロゴロと転がってきた雪玉は、俺のお腹にクリーンヒット。そのまま俺は後ろに倒され、後ろにあった自分たちの雪玉に挟まった。
「ごぇµå˜ç3rlˆ≤∂-$p2ø¥*(∑µ!]」
腹部と背中からミシミシパキパキと嫌な音が鳴り、視界が明滅する。や、ヤバい、さっき木にぶつかった時よりも受けたエネルギーが大きいせいで、明らかにダメージが大きい。
「だ、大丈夫デスか‼︎」
遅れてサーシャが到着すると、俺の前から雪玉をどかした。そして、俺を立ち上がらせる。
「う、うん……大丈夫、エラーはないみたい」
その言葉にサーシャは安心したようで、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
「ちょっとサーシャ、危ないじゃない!」
「申し訳ないデス……ワタシの不注意デス、ごめんなさい」
駆けつけたみなとがサーシャに怒る。珍しく感情を露わにして声を荒げている。サーシャは本当に申し訳ないと思っているようで、俺とみなとに頭を下げる。その様子に少々面食らったようで、みなとは押し黙った。
「みなと、俺は大丈夫だから」
「……わかったわよ」
そして、飯山と越智も駆けつける。
「ほまれちゃんが無事でよかったよ〜」
「ホッとしました……」
「心配かけてごめんね」
サーシャが転がしてきた雪玉は、俺にぶつかった衝撃で外側が少し剥がれてしまい、直径が七十センチくらいになっていた。
それにしても、もし少しでも雪玉のルートが外れていたら、他の人にぶつかっていたかもしれない。実際、俺たちの周りには雪合戦や雪だるま作り、かまくら作りを楽しんでいる人がたくさんいるし、その中には子供もいる。もし子供にぶつかったら大惨事になること間違いなしだ。その点で言えば、体が丈夫な俺に当たったのは不幸中の幸いだった。
「……この雪玉、どうしますか?」
「とりあえず、端っこに退けて完成させよう」
せっかく作ったのだし、完成させておきたい。俺たちは雪玉三つを端っこの方に寄せる。
「でも、これ持ち上げられるかなぁ? 相当重いと思うんだけど……」
雪玉を移動させたところで、飯山は雪玉をポンポンと叩いて疑問を呈する。
「とりあえず大きさ順に積み上げるしかないんじゃないかしら」
「そうデスね」
「となると、一番下は俺たちのやつだな」
一番大きいのは俺とみなとが作った直径一メートルの雪玉だ。残るは飯山・越智が作った雪玉とサーシャが作った雪玉だが、どちらも同じくらいの大きさだった。
とりあえず、一メートルの雪玉の上面を手で払って平らにする。その上に、まずは飯山と越智が自分たちが作った雪玉をなんとか乗せる。
「あとはワタシのデスね」
「しかし、この高さを持ち上げるのはかなり難しいのでは……?」
そう言って越智は二段の雪だるまを見上げる。すでに雪だるまの高さは一メートル六十センチほどになっている。みなととほぼ同じくらい、俺の身長よりちょっと高いくらいだ。この高さまで直径七十センチの雪玉を持ち上げるのは難しいだろう。
しかし、この場にはそれが実行できる者が一人いるではないか!
「俺なら、できるよ」
俺のこの体なら、人間離れしたパワーを出すことができる。二人や三人がかりで持ち上げるような物体でも、俺一人で対応できるはずだ。
「でも、体は大丈夫デス?」
「平気だよ。雪玉が落ちないようにガイドをしてくれれば大丈夫だよ。みなと、サーシャ、お願いできる?」
「任せるデス!」
「わかったわ。でも無理しないでね」
この中で身長が高めの二人に、雪だるまのそばでスタンバイしてもらい、俺は雪玉の下に手を入れる。そして、一気に持ち上げる。
「う……!」
確かに重い。だが、持ち上げられない重さではない!
「おりゃああ‼︎」
「おお〜!」
「スゴいパワーです!」
俺は一気に雪玉を持ち上げて、自分の頭より高い位置で保つ。そして、ゆっくりと雪だるまに近づくと、二段目の上に乗せた。みなととサーシャが斜め後ろで雪玉を支え、安定するように乗せる。
「よし、完成だ!」
俺たちの目の前には、高さ約二メートル三十センチの、巨大な三段雪だるまが出現したのだった。