チノ・千夜「コッコア~!」
(画面下から片手を挙げて元気よく出てくるココア)
ココア「はーい!」
(画面に顔を近づけてウィンクしながら)
ココア「『ごちゾン』♪ はっじまるよ~!」
マヤ・メグ「wwwwwwwwww」
(テデーン! と突然の効果音)
リゼ「マヤ・メグ、OUTー!」
シャロ「ちょっとちょっと! いろんなネタ混ぜないでよね! というかリゼ先輩の初セリフそれ⁉」
リゼ「いやぁ~……こういうの、少しやってみたかったんだ……」
シャロ「先輩まで~……ここはこういうネタを披露する場所じゃないですよ!」
ココア「まあまあ、シャロちゃん、いいじゃ、ないの~」
千夜「ダメよ~、ダメダメ!」
シャロ「古っ! じゃなくて、だからネタを発表するための場所じゃないんだって!」
リゼ「シャロ、諦めるんだ」メロンパングリグリ
シャロ「ひやあぁっ、りじぇしぇんぱぁい……♡」
チノ「というわけで、『ご注文はゾンビですか?』 第8羽、始まりです」
「これでひとまず大丈夫だろう」
リゼがガチャリと鍵をかける。そして次の瞬間、ドンドンという音とともにドアの向こう側からゾンビの呻き声が聞こえてきた。だが、ドアを超えてこちら側に侵入することはなさそうだ。
「助かったよ~」
「これで、とりあえず安心ですね……」
ココアとチノがずるずると壁際に腰を下ろす。緊張の糸が切れて、リラックスした顔になった。
その隣では、千夜が体力切れで傍に風呂敷を投げ出して倒れるようにして休んでいた。
「一応これでも敵地のど真ん中なんだが……」
リゼが呆れたように三人を見る。
だが、彼女三人にも劣らず、シャロもシャロだった。
「ここが……リゼしぇんぱいの部屋……!」
リゼたちが安全地帯として避難してきたのは、リゼの部屋だ。ベッドや勉強机、そして眼帯をした兎のぬいぐるみなど、普通の女子らしいものがあり、さらに壁にはモデルガンがいくつも掛かっているなど、リゼらしい内装になっていた。
シャロはリゼのベッドに迷わず駆け寄ると、ベッドに顔をうずめる。そしてくんかくんかと匂いを嗅ぎだす。
「はぁ……はぁ……りじぇしぇんぱいのいいにおい……♡」
「やめろぉ! シャロ!」
リゼがシャロを自分のベッドから引き離しにかかる。だが、せっかくのチャンスを逃すシャロではない。シャロはリゼのベッドにしがみついて離れない。あまりにもカフェインを摂取しすぎていたため、少しシャロの思考は変な方向にずれているのだ。
そしてマヤとメグに関しては……。
「おー! これカッコいいなー!」
「マヤちゃん……! 勝手に触っちゃだめだよ……!」
壁に掛かっているモデルガンに興味津々だった。そして、マヤがそのうちの一つに手を触れた瞬間、かけ方が甘かったのか、外れて落下してしまった。だが、地面にぶつかる直前、マヤがすんでのところで拾い上げた。
「おっと……! 重っ!」
「あーもう! どいつもこいつもぉっ……!」
そして、リゼがキレた。
「お前らあっ! 全員整列!」
リゼ は 鬼司令官 へと 変貌した!
リゼの纏う雰囲気の変化に、他の六人は一斉にビクッと体を震わせた。そして、こわごわとリゼの方を見る。
「リゼちゃん、ちょっと落ちt」
「全員並べ! 返事!」
「「「「「「イエッサー!」」」」」」
全員立ち上がると、一斉にリゼの前で二列横隊になった。そして、リゼに全く同じタイミング・全く同じ動きでビシッと敬礼した。
「よし! まずは多大な救援に感謝する!」
リゼは六人を見渡して、そんな言葉からかけ始める。
軍人モードになるスイッチが入ったのか、口調や立ち振る舞いまで完全に軍人のそれだ。
「現在、大量のゾンビが異常発生中だ。原因はわからない。だが、そんな中、ここにいるみんなは立ち上がってくれた。そこで、私たちはこれからどうするべきか、だが……」
そこでいったん言葉を切ると、彼女は一回咳払いをする。そして、思い切ったように言った。
「この異常事態を、収束させたいと思う」
「……どういうことですか、リゼさん?」
「実はだな……このゾンビどもがどこから発生しているか、そのおおもとの見当はついているんだ」
「どど、どういうこと⁉」
リゼは自分の勉強机の上に置いてあった一枚の紙を手に取る。そして、その紙を床に置くと他の六人に行って、それを囲むようにして円陣を作った。
「これはなに、リゼちゃん?」
「私の家の見取り図だ。今、私たちがいるのはこの部屋だ」
そういうと、彼女は地図の部屋の一角を指さす。地図の全体からしてみれば、本当に小さな部屋だった。実際その部屋の中に六人いても、まだたくさんの人が入る。リゼ家がとんでもなく大きいことがよくわかった。
「それで、私はこのゾンビは地下室から来ているのだと思う」
そういうと、リゼは地図の一番下に記載されている地下室を示した。リゼの部屋からはまあまあ遠い位置にある。
「リゼ先輩はなぜそう思ったんですか?」
「ああ、ゴム弾で応戦しているときに、なんだかゾンビがそっちの方向から来ている気がしてな……もしかしたら地下室じゃないかもしれないが、その方面から来ていることは間違いないだろう」
「じゃあ、皆でそこに向かえばいいんだなー!」
「そうだ。だから、私たちはこれからこの部屋を目標に進軍することになる!」
リゼは赤のサインペンでぐりぐりと地下室の文字を丸で囲む。
これから向かうべき場所は決まった、ならばあとは進むだけだ。
「ここまで大丈夫か?」
皆が首を縦に振るのを確認して、リゼは手を叩いて指示を出す。
「よし、それではこれより十分間の休憩をとる! その間、武器補給など、各自万全の体制を整える! ゾンビをたおして街の平和を守るぞ!」
「「「「「「イエッサー!」」」」」」
リゼの号令に、六人は元気よく返事をした。
そして休憩時間に入り、それぞれが来る戦いに向けて準備を始める。
ココアは壁際で自分の麺棒に傷がないかどうかを確かめる。彼女の武器はこれのみ。これが傷ついてしまえばゾンビをたおせないし、パンも作れないという一大事になる。だが、幸いなことに、麺棒は折れたり曲がったりはしていなかった。
「よかった~」
チノはそんなココアの隣で、ティースプーンの具合を確かめる。そして、部屋の片隅に置いてあったカップを見つけると、モデルガンとゴム弾の準備をしているリゼに尋ねた。
「リゼさん、そこのカップをお借りしてもいいですか?」
「ああ、別に構わないぞ」
リゼの許可が下りたので、チノはカップの中に魔法でコーヒーを注ぐ。魔法はまだまだ問題なく使えるようだった。
「ココアさん、コーヒーをどうぞ」
「わー! チノちゃんありがとう!」
千夜は自分の風呂敷を広げて、残りの缶コーヒーの数を確かめる。千夜の持っているコーヒーは、そのままシャロの戦力に直結する。地味かもしれないが、実は超重要人物である。
(あと二つね……大切にしなきゃ)
護身用に持ってきたハリセンも、十分に使えそうだった。千夜の場合は、そんなものがなくても天性の運でさらっと回避してしまうのだが。
そんな千夜の支援を受けるシャロは、物理的な準備というよりも精神的な準備の方に集中していた。
なにせこんな形で入ったとはいえ、憧れの先輩の部屋にシャロはいるのだ。本当だったら、リゼを全身で感じていたいところだ。だがそんなことをしていられない今は、その衝動を抑えるのに必死なのだ。
(落ち着くのよ、私! 落ち着くのよ……)
そして最後にマヤとメグは水鉄砲の水タンクの補給をしていた。
「リゼさん、この部屋に水道ってありませんか?」
「残念ながらそれはないな……だけど、ここにある非常用の水を使っていいよ」
「ありがとうございます!」
リゼがガラガラと戸棚を開けると、そこには二リットルの非常用飲料水が大量に貯蓄してあった。本来なら地震などの災害時に使うべきものだが、実際今も非常事態だ。水道がない以上、これを代役にするしかない。
二人は千二百ccの水鉄砲の水タンクを満タンにして、準備を整えていった。
そして部屋の時計が午前零時十五分を指す。
「皆! 準備は終わったか!」
「「「「「「イエッサー!」」」」」」
この部屋にいる七人の少女たちは、自分の持てる武器を最大限に整備し、戦闘する用意ができていた。
リゼは外に繋がるドアノブに手をかけて、後ろの六人に確認する。
「それでは、ゾンビ殲滅戦に向かうぞ! 覚悟はいいな?」
全員が首肯するのを見届けて、リゼも覚悟を決めた。
そして鍵を勢いよく回して解錠し、ドアをバンッ、と開け放つ。
「総員、突撃!」