チノ「こんにちは、香風智乃です。今回の『ご注文はキャプションですか?』には特別ゲストのマヤさんと、メグさんをお呼びしています」
マヤ「こーんにちはー! チマメ隊の『マ』こと条河麻耶でーす!」
メグ「こんにちは~! チマメ隊の『メ』こと奈津恵で~す!」
マヤ「なあなあチノー! なんでチノは魔法少女の格好をしているんだ?」
メグ「ホントだ~! おっきいティースプーンも持ってる~!」
チノ「ええっと、これはですね、深い事情が……」
マヤ「わー! メグー! フリフリのフリルがついてるぞー!」
メグ「かわいい~!」
マヤ「胸元におっきいリボンもついてるぞー!」
チノ「ま、マヤさん……! そこは触らないでください! 解けたらいろいろマズいことに……!」
メグ「あっ、ほどけちゃった……」ヒュッ
チノ・マヤ「「あっ……」」スルリ
ココア「チノちゃーん!」
(ただいま放送が中断しております。しばらくお待ちください)
ジャスト十二時。普段なら街は静寂に包まれている時間帯だ。ただし、今日は違う。道にはゾンビの呻き声と、ゆっくり前進するザッ、ザッ、と満ちている。
そんなゾンビどもを薙ぎ払い、斬りたおし、時には水で撃退し、シャロ・千夜・ココア・チノ・マヤ・メグの六人はとある豪邸の目の前に到達していた。
「ここがリゼちゃんの家……!」
「デカいな~!」
「お嬢様っていうのは、本当だったんだね~!」
マヤとメグが門の向こうの家を見上げて、感嘆したような声を漏らす。周りの木組みの家とは、一線を画す巨大さだった。
「そういえば、マヤちゃんとメグちゃんはリゼ先輩の家を見るのは初めてだったっけ……」
もちろん、シャロはリゼの家に何度か来たことがある。だが、それでもこの家を見るたび、いつも大きいなと心に思う。
だが、今回は状況が状況だった。普段なら門の前に黒服のガタイのいい男の人が待っているのだが、今日はそれがいない。その代わり、締め切られた門の中には、大量のゾンビが呻いてガタガタと門を揺らしていた。さらに今も、門の奥――リゼ家からどんどんゾンビの量は増え続けている。
門に鍵はかかっていないようだが、ゾンビどもに鍵を開ける能力はないみたいだった。ただ呻いて門を揺らすだけだ。
「ここが、ゾンビの発生源とみて間違いないわね……」
千夜がその様子を見て呟く。今、彼女たちの周りにゾンビはいない。つまり、ゾンビが自由に出られていた、開けっ放しだった門を誰かが後で閉めたということになる。
ならば、この家にはまだ誰かが生きている、ということだ。
次の瞬間、ドドーン! と巨大な爆発音がリゼの家の方から聞こえた。地面が小さく揺れるのを、六人は感じた。
「……リゼ先輩!」
「行こう、みんな!」
ココアが発破をかける。もうこれ以上門の前で躊躇している場合ではない。このままではリゼの身が危ない。
彼女たちは顔を見合わせて大きく頷くと、勢いよく門を開け放った。その瞬間、ゾンビどもが押しつぶされるようにして外にあふれ出す。
「チマメ隊のみんな~!」
ココアの呼び声と同時に、マヤとメグが満タンにしておいた水鉄砲を勢いよく噴射する。その横で、魔法少女チノがティースプーンから、コーヒーの奔流を勢いよくゾンビどもに浴びせた。
チマメ隊の見事な遠距離攻撃だ。それによって、門際に溜まっていたゾンビどもが断末魔をあげて次々と地に伏してゆく。
そして門の内側からゾンビが消えたとき、六人は一斉にリゼの家の敷地に入る。そして両側に開け放たれた門を、これ以上の被害が出ないように再びガラガラと閉じた。
そんな傍から、ゾンビがリゼの家の方からどんどん押し寄せてくる。シャロは千夜からB〇SS缶コーヒーを受け取るとそれを飲み干してドーピングした。そして、木刀で一刀両断する。
「皆さん、早くいきましょう。ゾンビに追いつかれてしまいます……!」
チノに続いて、彼女たちは建物へ急ぐ。
彼女を前衛にして、コーヒー攻撃でゾンビどもの群れの中を切り裂いて、六人は建物の中に入った。玄関の大広間に、リゼの姿はない。あるのはとどめなくどこからか湧いてくるゾンビどもだけだ。
問題は、リゼがこの広い屋敷のどこにいるか、ということだ。一丸となって探しに行くべきか、それとも分散して探しに行くべきか。
「ここは、みんなで固まって進みましょう」
「千夜さんの言う通りです。分かれて戦うのは危険すぎます」
二人がすぐに一丸となって戦うことを提案する。ゾンビが大量にいるこの状況で、戦力の減少は危険だと判断したのだ。分かれた方が、リゼを見つけるのは早くなるかもしれないが、同時に全滅する恐れも高くなる。それに、仮に片方のチームがリゼを見つけたとしても、、もう片方に携帯電話で連絡する暇がない。
「そうだね! はぐれないようにしよう!」
ココアがそう言った瞬間、どこからかバババババ、という銃声が連続して聞こえた。その音に、カフェイン酔い中のシャロが反応する。
「はっ! これは……りじぇしぇんぱいのモデルガンの音!」
ラビットハウスで電話越しに聞いた銃声の音と、今の音はよく似ていた。こんなものを扱う人は、彼女たちの知っている人物の中には一人しかいない。リゼだけだ。
シャロは木刀でゾンビをたおしながら、ふらふらと銃声のした方向へと進んでいく。
「あっ、待ってよーシャロー!」
「シャロさん、危ないですよ~!」
慌ててその後をマヤとメグ、さらにココアと千夜とチノが追いかけた。
皆は、シャロが向かっている方向にリゼはいる、と確信していた。
なぜなら、シャロはリゼのことがとても好きだからだ。カフェインで酔っていても、その勘は決して馬鹿にしてはいいものではない。いや、むしろカフェインで酔っているからこそ、リゼ愛がシャロの中で高まって、勘がはたらくのかもしれない。
ところどころ照明が消えている廊下をシャロたちが進むこと数分。
チノが足の裏で何かを踏んづけて、滑りそうになった。
「おっとっと……」
何とか踏みとどまって、チノは足をどけて自分が踏んづけたものを拾い上げる。窓から差し込む月明りに光って見えたそれは……。
「ゴム弾? でしょうか……」
銃弾のような見た目。だが触ると軟らかい。ゴム弾だった。
こんなところにゴム弾が落ちているということ。それは、リゼがこの場でゴム弾を発射してゾンビをたおした、ということを意味している。
(リゼさんはまだこの近くにいます……!)
すると、突然再びあのババババババ、という特徴的な銃声が聞こえた。今度は、さっきよりも音が大きい。チノの予想通り、リゼのいる場所へとどんどん近づいてきているのだ。
「さっきよりも音が大きいよ……!」
「これは、リゼちゃんの居場所に近いっていうことね……!」
ココアと千夜が同時に頷く。そしてゴム弾の音を聞いたシャロは真っ先に廊下を駆けだした。ゾンビをたおしながら、音のした方向へと走っていく。
「あっ、待って~シャロさ~ん」
マヤの制止も聞かずに、シャロは一心不乱にゾンビを薙ぎ倒して先へ先へと進んでいく。カフェインハイテンション状態ではなく、ゾンビみたいな怖いものや、兎が嫌いなただのシャロに戻っている。だが、それでも今のシャロには『怖い』という思いはない。心の中にある思いはただ一つだけだ。
「リゼ先輩……! 今行きます……!」
必死になってゾンビをたおし、そして廊下の角を曲がった次の瞬間だった。
「何者だ! 動くな!」
凛々しい声とともに、パアンッ……という銃声。
シャロに遅れること数メートル、五人はその音に一斉に顔を青ざめさせる。
(……シャロちゃんが、撃たれた⁉)
彼女たちからしてみれば、廊下を曲がったシャロの姿が見えなくなった瞬間のことだったのだ。聞こえた銃声は、少なくともこれまでとは違う、本物の実弾が発射されたような音だったし、それに聞こえた声は聞き間違えようもなく、リゼ本人の声だった。
つまり、リゼがゾンビと間違えてシャロを拳銃で撃ってしまった……という最悪のシナリオが起こったかもしれないのだ。
五人は残ったゾンビを蹴散らすように処理して、廊下の角を曲がって駆け付ける。
そして五人の目の前には、腰を抜かしてへたり込むシャロと、硝煙が立ち昇る銃口を天井に向けたまま、驚いた顔で見つめるリゼの姿があった。
リゼは五人の姿を認めるや、一言。
「皆、来てくれたのか!」