「大丈夫か! と、とりあえず……救急車だ!」
焦っていた俺が真っ先に思いついたのは救急車を呼ぶことだった。墓参りをしていたら天使の翼とリングが出てきて苦しみだした、という症状の病気は知らないが、救急車を呼ぶことの他に、俺にできることは思いつかなかった。
俺は自分のスマホを取り出すと、緊急通報ボタンを押そうとする。しかし、電源ボタンを何度押しても画面が真っ暗のまま、ロック画面に移らない。
クソッ! こんな大事な時に……! どうやら俺のスマホは調子が悪いみたいだった。
ならば、と俺は辺りを見渡す。すると、俺の足元に、五十嵐が持ってきていたバッグが落ちていた。俺は祈るような気持ちでそのバッグを拾うと、五十嵐ごめん! と思いながら必死にその中を漁る。
「あった……!」
バッグの中には五十嵐のスマホがあった。五十嵐が自分のポケットに入れている可能性も十分あったが、俺は賭けに勝利したのだ。
このスマホは確かすいぶん前に、現金一億円とともに神から送られてきたものだった。俺のスマホとは違う機種であるφphoneなので、操作方法はよく知らないが、とにかくやるしかない。
ホームボタンを押す。すると、俺のスマホとは違い、ロック画面にすんなりと移行した。そして、下部の緊急通報ボタンを押そうとしたその時、突然スマホがバイブレーションした。
「うわっ」
思わず情けない声を出してスマホを地面に落としかける。だが、なんとか持ち直して画面を見ると、そこには非通知で電話がかかってきている旨が表示されていた。
こんなときになんだよ、と思いながら切ろうとして何回も切断ボタンを押すが切れない。くそっ、何で切れないんだ! このスマホも不調なのか……!
とにかく、電話が切れない以上、これに出るしかない。そして事情を説明して切ってもらうか……あるいは、その人に助けを求めるのも手段の一つにかもしれない。とにかく時間が無い。俺は電話に出た。
「もしもし!」
「あ、やっと出た」
電話に出ると、聞こえてきたのは甲高い奇妙な声だった。よく報道番組に出てくるような、ボイスチェンジャーで不自然に高くしたくぐもった声。なんだコイツ、ふざけているのか? とイライラしながら俺は答える。
「申し訳ないが、今五十嵐は具合が悪く倒れているんだ! これから救急車を呼びたいから、電話をかけるのを止めてもらってもいいか⁉」
「うーんそうだねぇ……」
俺の必死の訴えかけも虚しく、とぼけた態度で向こうは接してくる。頭にカチンとくる。
「おい、今大変なんだ! 電話をかけないでもらえるか!」
「一つ聞いてもいいか?」
「なんだよ!」
思わず声を荒げてしまう。電話の向こうの声の主が言った。
「君は、セラフィリのことが大切なのかい?」
「当たり前だ!」
考えるまでもない。だから緊急通報をして助けようとしているんだ!
すると、俺の答えを聞いた電話の向こうの人は、笑い出した。そして、こう続ける。
「ねぇ、ちょっと僕と話さないか? セラフィリを助けるために、ね?」
「どういうこと……」
次の瞬間、スマホの画面が強烈な光を発した。急に出てきたその真っ白な光に周りの景色が塗り潰され、俺は飲み込まれるようにして体の感覚を失った。