大荷物を持って、俺たちは家路につく。
えっちらおっちらと、春先なのに少し汗をかきながら、俺はゆっくり歩いていく。一方の五十嵐は同じくらいの荷物を持っているのに余裕そうだ。
「大丈夫? 少し持とうか?」
「い、いや……自分の荷物は自分で持つよ」
「そう……大変だったら遠慮なく言ってね」
「ありがとう……」
五十嵐に心配されるなんて、自分が情けない……。春休みから筋トレでも始めようかな……。
そして、やっとのことで俺たちは家に到着する。
「た、ただいまー」
「ただいま」
「お帰りなさい」
すると、玄関の奥からは、この時間に家にいるはずのない人の声がした。少々意外さを覚えながら、俺は荷物を廊下の脇に一旦置くと、リビングに入る。
「母さん! 今日、仕事じゃないの?」
「ええ。けど、有給が残っていたみたいで、それを消化してほしい、って上司に帰されたのよ」
「そうだったのか……」
だから、こんなに早く帰って来ていたのか。今までブラックだと思っていたけど、きちんと有給は存在するんだな。よかったよかった。
俺はお昼ご飯を食べた後、しばしの小休憩を挟む。春休みとはいえ、課題が全く出ていないわけではない。この休憩の後から、少しずつ取り組むつもりだ。
「慧」
「ん? どうしたの母さん」
ソファーでダラっと座っていると、不意に母さんが話しかけてきた。
「一応確認なんだけど、今年は行くの、行かないの?」
「何に?」
「……光ちゃんのお墓参りよ」
「……」
その瞬間、お気楽ムードが一気に吹っ飛んだ。
そうか、もうその時期になってしまったのか……。
あの事件から、もう二年が経過する。去年は、行けなかった。いや、行かなかった。俺自身の心が弱かったせいで、何もすることができなかった。
しかし、このままではいけない。このままずっと、何も行動を起こさないままでは、俺はそのことをずっと後悔し続けるだろう。
それに、心に決めたはずなのだ。変わっていこうと。このことに、決着をつけるのだと。今こそ、それを実行するチャンスなのではないのか。
「……行くよ」
「……え?」
「俺、今年は行くよ」
俺は天井を見つめながら言った。
俺のこの姿が母さんにはどう映ったのかは分からない。ただ、母さんは何かを感じ取ったようだった。
「……そう、なら、後でお墓の場所を伝えるわね」
「分かった」
首が疲れてきたので、不意に横を向くと、リビングの入り口のところにいつの間にか五十嵐が立っていた。そんなところで立ち止まって何をしているんだ? と一瞬疑問を抱くが、さっきの話を聞いていたのだろう。彼女は両手をギュッと握りしめて、真剣な表情をしたまま立っている。
そして、次の瞬間、彼女の口から予想だにしない言葉が飛び出した。
「慧……そのお墓参り、わたしもついて行っていいかな……?」