当日の朝は、よく晴れた、至って平和な日だった。確か二年前も、同じような天気だったなと思い出す。あんな事故が起こるとは思えない、そんな平和な雰囲気の日だった。
俺は朝ご飯を食べ終えると、早速出かける準備をする。出かける準備を整えて、玄関に向かうと、そこには既に準備を終えた五十嵐が靴を履いて待っていた。
「悪い、待たせたな」
「いいよ」
俺は急いで靴を履くと、行ってきます、と家を出発した。
まずは最寄り駅に向かう。二日前まで毎日のように通っていた通学路を辿っていく。
ここで、俺は道順を改めて確認しようとスマホを取り出す。そして、ロックを解除すると、画面にはとんでもないものが映し出された。
「えっ……何これ」
「わ、それどうしたの?」
「……どうやら夜中に水無瀬が電話をかけてきていたらしい」
俺のスマホには、今日の午前一時から午前四時にかけて大量の不在着信の通知が来ていた。俺はいつもリビングにスマホを置いて寝ているので、気づかなかったのだ。
五十嵐にちょっと待ってもらい、俺はすぐに水無瀬にかけ直した。しかし、何度かけても全く繋がらない。今、水無瀬はヨーロッパに旅行しているはずなので、おそらく時差で寝ているのだろう。
当然、水無瀬も時差に気づいているはず。それなのに、こちらに電話を繰り返しかけてきた。となれば、その用件は、時差なんて忘れてしまうくらい、または時差があることなんて気にかけていられないくらい重要なものだったのだろう。いったい何の用だったのだろうか。留守番電話サービスを設定しておけばよかった。
それにしても、何か嫌な予感がする。が、ここで引き返すわけにはいかない。今日という日は一日しか来ないのだから。
「どうだった?」
「いや、全然繋がらない。たぶん寝ているんだと思う」
「そっかー……」
「また後でかけ直すか。とりあえず行くぞ」
「うん」
俺たちは、再び最寄り駅に向かって歩き出す。
駅に着くと、ちょうどやって来た電車に乗り込む。普段とは反対方向、ここからさらに郊外の方へ向かう電車だ。
俺はこの方向へ行くのは、何年かぶりだ。
一方の五十嵐は、山間に入ってどんどん緑が多くなっていく車窓に釘付けだ。そんな彼女を隣に、俺は昨日のことを思い出していた。
どうして、墓参りに行きたいと言い出したのか、その理由を語っているところを。