男子第一回戦が終了し、上位四クラスと下位四クラスが決定した。我らがC組男子は、無事に一回戦に勝利し、上位四クラスのうちに入った。最大の関門にして第一段階クリアだ。
次に行われるのは、女子の第一回戦だ。C組の女子は早速出番である。俺たちは体育館前方の壇上に上がり、目の前で始まった女子の試合に声援を送る。
コートの中には、早速水無瀬の姿がある。見ている限りでは、球が回ってきたときにはだいたい返せている。きちんと放課後の特訓の成果が出ているようで何よりだ。しかし、運動神経があまりよろしくないからなのか、ボールに対しての動きが鈍く、少々危なっかしい。見ているこちらはドキドキだ。
両チームともほぼ同じペースで得点を重ねて、試合が進む。何度目かのサーブが始まり、ボールが宙に舞っている時に、それは起こった。
「せいっ!」
相手チームが鋭くスパイクを打つ。慌ててC組はブロックしようとするが、間に合わない。コートのネットよりの場所に鋭い球が落ちていく。そして、ボールの向かう先には、固まっている水無瀬。突然のことで、うまく動作の切り替えができていないようだった。向かってくるボールを見て、水無瀬は返すのではなく避けようとして、頭を抱えてしゃがみ込む。
その結果、地面に向かうバレーボールは、しゃがんだ水無瀬の頭にちょうど邪魔される形になった。
「あうっ!」
ばちこーん、と鈍い音を響かせて、ボールは地面に触れることなく、水無瀬の頭で上方向へ跳ね返った。
バレーボールは、ルールの上では体のどこを使ってもボールを返してよいことになっている。それを見て、てっきり得点されたと思っていただろうC組のチームメイトは一瞬固まるも、すぐにボールを捉えようと動き出す。
そして、そのまま流れるようにトスを繋ぎ、今度は相手チームへカウンター攻撃し成功。審判の笛が鳴り、こちらの得点になった。
「水無瀬さん、頭突きナイスだよ!」
「ファインプレーだった!」
「あ……うん……」
水無瀬はチームメイトから褒めの言葉を貰うが、どこか釈然としない顔をしていた。
そんな彼女と入れ違いでコートに入ってきたのは、アリスだった。学年唯一の金髪美少女、ということで、彼女は元々目立つ存在ではある。だが、今回は特に男子からの視線を釘付けにしていた。
動き回るたびに跳ねる巨乳。バレーボールに負けず劣らず大きいその胸が、アリスが動き回るたびに揺れているのだ。これに男子たちが反応しないわけがない。我がクラスの男子どもはもちろん、普段アリスの姿を見ていない他クラスの男子の視線も釘付けにしている。
「眼福だ……」
「ヲイ」
隣で、にへら〜としているもっちーを俺は小突いた。
すると、相手のスパイクが飛んでくる。今度は手前の方ではなく、奥の角、コートの端ギリギリを狙ったアタックだ。だが、ブロックによって狙いがわずかに狂ったのか、アリスの方に真っ直ぐ飛んできていた。
アリスも、水無瀬と同様、運動神経があまりよくない。彼女は、咄嗟に反応することができず、アンダートスの構えのまま固まってしまっていた。その結果……。
「きゃっ!」
思いっきりバレーボールが胸に衝突した。
しかしながら、彼女の巨乳のおかげか、ボールはバイーンと大きく跳ね返った。バレーボールは、ルールの上では体のどこを使ってもボールを返してよいことになっている。当然、胸で返しても有効になる。アリスは尻餅をつくも、咄嗟に反応したチームメイトによってなんとかトスが繋がった。最終的に、このラリーはこちら側が制した。
「さあ、真打が来たぞ……!」
そして、こちら側の主力が、遂にコートにインする。
C組女子にはバレーボール部に所属している人がいない。だから、とにかく運動ができる人がクラスの中でバレーボールが一番上手な人、となる。
俺たちのクラスの場合、それは五十嵐のことだった。運動神経抜群の彼女は、少しの練習でこのクラスのエースとなっていた。
五十嵐がボールを高く上げる。そして、軽く助走をつけると、勢いよくボールを叩き出した。
バシーン! と凄まじい音を立てて、弾丸のように直線に近い軌道を描くバレーボール。その勢いに、相手チームは誰も反応できず、ただ見送るだけだった。笛が鳴り、得点が入る。
圧巻の光景に、俺たち観客は一瞬言葉を失う。あれでバレーボール部ではない、ただの帰宅部の女子なのだ。男子でも打てる人がいないようなサーブに、観客席は静寂からすぐにざわめきに覆われた。
その後も、圧倒的な実力で得点を重ねていく五十嵐を見て、もっちーがポツリと呟いた。
「あれは……チートだよなぁ」
「……確かに」
もちろん、C組女子は勝利を飾ったのだった。