男子、女子ともに一回戦を勝ち抜いた我がC組は、そのまま両方とも準決勝を突破し、決勝戦に進出した。
そして、昼休みを挟んだ後に、まずは男子の決勝戦が始まった。
「決勝まで来たからには、絶対に勝つぞ!」
「おう」
もっちーは、更に熱血っぷりを増しながら、決勝へ臨んでいた。
実際に、最初は順調そのものだった。面白いほど得点を重ね、一時大差をつけて相手をリードした。
このまま行けば、優勝間違いなしだ……!
しかし、そこで気を緩めたのがいけなかった。
こちら側のミスが重なって、相手チームに得点が連続して入る。それに焦ったのか、プレーが雑になってきて、更にミスを重ねて相手に得点を許してしまう。勝利を確信していたのに、いつの間にかC組は負のスパイラルを辿っていた。
そして、試合終了の笛が鳴る。
喜ぶ相手チーム。項垂れるチームメイト。
俺たちは、まさかの敗北を喫してしまった。
「ぐっ……うっうっ……負けちまったよ……」
「……悔しいな」
負けたショックでもっちーは泣きだしてしまった。それほどまでに、球技大会に熱意を燃やしていたのだ。
しかし、負けたとはいえ準優勝だ。全八チームのうち二番である。もっちーにとっては、二位じゃダメだ! なのだろうが、客観的に見れば十分上位に位置している。
それに、まだC組の総合優勝が潰えたわけではない。女子の決勝戦が残っている。そこで女子が勝ってくれれば総合優勝は間違いないだろう。しかも、C組には五十嵐という絶対的なエースがいる。優勝できる可能性は極めて高い。
もっちーを落ち着かせながら、しばらく観客席で待っていると、女子の決勝戦、C組vsD組が始まった。
コートには最初から五十嵐が入っている。今回もこちら側が順調に得点を重ねられるだろう。
そう思っていた時が、俺にもあった。
「さーて、バレーボール部の本気を見せちゃおっかな〜」
ダムダム、とバレーボールを弾ませながら、相手コートでわざとらしく呟く一人の女子。
彼女はボールを高く上げると、バシーンと勢いよくサーブを放った。
弾丸のように真っ直ぐ飛んだボールは、コートの端に着弾して、相手チームに得点が入る。
「湯崎か……!」
相手チームには湯崎がいた。彼女はバレーボール部。この球技大会は、まさに彼女の土俵である。
奇しくも、実力がそれぞれの組でトップクラスの二人が、同じタイミングでコートに入っていた。
やはり二人の実力が圧倒的に抜きん出ているため、クラス同士というより、エースがちんこ対決の色合いが強かった。一進一退の攻防が続く。
相手が得点すれば負けじとこちらも得点する。手に汗握る展開が途切れなく延々と続く。
そして、ローテーションが周り、二人がコートの外に出てからも、点数差はほとんどつかず、遂にまた二人がコートの中に入った。既にデュースを何度も繰り返していて、現在はこちらが一点だけリードしている状態。ここからあと一点取れば、勝利。言い換えれば、相手チームには後がない。
「ここで決める!」
五十嵐がそう呟いて、サーブを繰り出す。相手のコートに打ち込む。しかし、相手側も黙って点数を取られるわけにはいかない。
「こなくそー!」
湯崎が意地のレシーブ。ボールを高く上げると、こちら側にアタックを仕掛ける。
そこからは壮絶な撃ち合い合戦だった。ラリーが続く。終わりそうで終わらない。どちらも疲労が極限まで達していて、最早、意地と意地のぶつかり合いだった。
そして、ラリーの開始から数分が経ち、遂にその瞬間がやってきた。
「はぁっ!」
五十嵐が渾身のスパイクを放つ。ブロックの手の隙間を通り抜けて、相手のコートへ一直線へ向かう。
湯崎がそれを拾おうと飛び出す。しかしながら、体力を使い過ぎてしまったのか、あと一歩だけ、ボールには及ばなかった。
ボールがダムッと床を跳ね、その直後にズザーと湯崎が体育館の床を滑る。
審判の笛が鳴った。試合終了。C組女子の勝利だった。
「うおおおおおお!」
「やったー!」
コートの外で待機していたC組女子、そして観客席のC組男子から大きな歓声があがる。一方、コートの中の六人、特に五十嵐は疲労困憊といった様子で、ただなされるがままにクラスメイトたちにもみくちゃにされていた。
しばらくして、五十嵐がコートから出るとき、彼女は俺を見ると、笑顔で親指を立ててきた。
俺も、おめでとう、という気持ちを込めて、親指を立てて返したのだった。