『それでは、水無瀬菫様の誕生日を祝って、乾杯!』
「「「「「乾杯!」」」」」
大勢の人が唱和し、次にチンチンと高く控えめな音が会場に響く。
それにしても、巨大なパーティーだ。去年も一度参加したことがあるが、その時よりもさらにグレードアップしている。本当に一個人の、それも十六歳の少女のための誕生日パーティーか? と疑いたくなるほどの規模だ。最早こちらが祝われているのではないか、とも思ってしまう。
目の前に用意されているディナーも豪華である。高級フレンチレストランに入ったときに出て来そうな料理が、皆の目の前に並んでいた。食い意地の張っているアリスは既に一心不乱に食べている。
「いただきます」
俺も一口、料理を口にする。
「…………」
「……慧? どうしたの?」
「う」
「う?」
「うっっっっま」
美味しすぎて語彙力を失くした。これまでの人生で食べた料理の中で間違いなく一番に入る。人生でこんな高級で美味しい料理を食べられるとは思っていなかった。本当に水無瀬と友達でよかった……。いつも中二病と馬鹿にしてごめんよ……。
ここで、五十嵐がグラスを持って、俺に聞いてくる。
「ねえねえ慧、この飲み物は? お酒じゃないの?」
「ああ、これはシャンパンだな」
一応嗅いでみるが、アルコールの匂いはしない。
「ノンアルコールだと思うぞ。俺たち未成年用に出されたんだろう。飲んでも法律違反にはならないはずだ」
「そうなんだ! じゃあ安心だね」
会場を見回してみると、俺たち以外に同年代らしき人はいない。参加者の大半がよいお年のおじ様である。全員水無瀬の親戚、というわけではないだろう。水無瀬の親繋がりで呼ばれたのだろうか。水無瀬家のことだから、企業の社長とか会長とかの重役なのかもしれない。
遠くの方を見ると、水無瀬が挨拶をして回っている。もしや、水無瀬はここでツテとコネを作ろうとしているのだろうか? 招待客からしても、金持ちの水無瀬家とのパイプは大切にしたいはず。このパーティーにはそのような目的もあるのかもしれない、と邪推せずにはいられなかった。
それにしても、ここでの水無瀬は普段と違い、THE・両家のお嬢様、といった振る舞いをしている。普段とのギャップがえげつない。もしここでパーティー参加者に、学校での水無瀬の振る舞いを見せたら、度肝を抜くこと間違いなしだ。
パーティーは賑やかに進み、夜は更けていく。