堀河先生と水無瀬は従姉妹どうしの関係だった。
マジか……。言われてみれば、顔とか背格好がなんとなく似ている気がしなくもない。だが、性格が全くと言っていいほど違うので、俺たちが気づく余地は無かっただろう。
すると、もっちーが妙にワクワクしながら先生に尋ねる。
「そ、それじゃあ……先生は水無瀬の幼い頃を……」
「もちろん、知っていますよ~」
「やっぱり、昔からあんな感じなんですか? その、『我はこの世を征服するため召喚されたのだー!』みたいな感じだったんですか⁉」
「昔はそんなこと言ってませんでしたよ~。純粋で可愛らしかったですよ~」
水無瀬が昔は中二病じゃなかっただと⁉ まあ、小学生や幼稚園児の頃から中二病を発症しているわけではないのは分かっているが、俺が水無瀬を知った中学生の頃には既に中二病だったのだ。だから、それまでどんな感じだったのかはとても興味がある。
「え、写真とかありますか⁉」
「ありますよ~画質悪いですが……」
そう言うと先生は自分のスマホを取り出して、アルバムを探る。
「ありました~。ほら……」
「わぁ! 見るな見るな見るなー‼」
先生が俺たちにスマホの画面を見せようとした瞬間、先生の前に水無瀬が現れて、立ちふさがった。めちゃくちゃ慌てた様子で、ピョンピョンと跳ねて必死にその小さい体で隠している。
「あれ、さっきまで扉の方にいたんじゃ……」
「偶然この近くを通ったのだ! そうしたら我の古の写真を白日の下に晒すという悪巧みが丸聞こえだったのだ!」
どうやら俺たちの話が聞こえていたようだ。
慌てすぎて中二口調が出ているがいいのだろうか?
「あら~」
「あら~じゃない! 恥ずかしいから見せないで!」
「いいじゃないですか~可愛いんだから~」
「ダメ! 見せない! ゼッタイ!」
水無瀬は顔を赤くしながら先生に詰め寄った。それに押されるように、分かりました~、と先生はスマホをしまって両手をあげた。
『本日はご来場、誠にありがとうございます……』
会場にアナウンスが流れ始めた。聞くと、来客は用意された席に座るように、とのことだ。確かに、招待状の裏には座席の案内が印刷されている。案内の示すテーブルを見ると、確かに俺の名前の書かれたネームプレートが置いてある席があった。高校の同級生という括りで、俺たち四人はまとめられているのだろう。
一方、今晩の主人公である水無瀬は、部屋の奥の方に行かなければならないようで、慌てて踵を返す。
「……ゴホン! それでは私はこれで失礼します。皆様、ごゆっくり!」
「いってらっしゃい~」
「……見せないでよ!」
最後に、先生に釘を刺すのを忘れずに、慌ただしく水無瀬は去って行った。